第81回 | 2012.01.23

中山間地域の振興方策を考える ~組織論・事業論の両輪で集落再生~

中山間地域の現状を見ると、総じて過疎化・高齢化、耕作放棄地の拡大、それに伴う集落としての機能の低下といった現象が見られる。しかし、その状況は地域によって大きく異なり、民間活力により自力で発展可能な地域も見られる。一方、いわゆる「限界集落」への対応は今後も重点課題であり「小規模・高齢化集落支援加算」は地域に高い支持を受けているものの、限界集落化してしまった地域の再生は現実的には非常に困難な状況にある。むしろ、多くの中山間地域が抱える共通課題は、今後集落機能の低下が懸念される中で、限界集落化をいかに食い止めるかにあると言える。

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中山間地域の振興に向けては、推進母体となる①地域住民主体のコミュニティ組織と、その持続的な活動を支える②地域内発型の小規模ビジネスの存在が必要不可欠であり、振興の方向性は、右のような組織論と事業論の2層で整理できる。コミュニティ組織が形成されていないと、そこに自発的な活動・事業は生まれないことに加え、効果的な支援もできないことが実態と言える。

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近年の、全国の中山間地域における動向を見ると、過疎化・高齢化により集落機能が減退傾向にある中で、住民組織の崩壊が、いわゆる限界集落を発生させ、集落の崩壊を招いていることが分かる。反面、地域住民の生活を守り自発的な活動を行う組織が存在する地域では、依然活力が維持されている傾向が見られる。

従来、地域生活の保障や活力の維持・向上は、行政あるいはJAなどの公的機関が担って来たが、市町村合併・組織合併や財政難などにより、近年その役割・機能は急速に減退している。また、特に中山間地域においては、第3セクターがこれらの機能を補足する最適な組織形態であると考えられ、多くの3セクが設立されてきたが、同様の理由により、今後新たな3セクを設立していくことは極めて困難な環境にある。今後さらに行政環境などが厳しさを増すことが予想される中にあって、村の株式会社化を実現した黒川村、JAが主体となって地域を支えている馬路村や、3セク方式の上勝町のような取組を、今後他の中山間地域で踏襲することは非現実的であろう。

こうした現状を踏まえると、中山間地域の振興を担う組織として、地域住民が主体となったコミュニティ組織を位置付け、これを設立、育成、強化する他に道はないと言える。一方、徳島県ではITサービス会社が県と連携し、過疎集落にIT企業のサテライトオフィスを誘致するプロジェクトを開始するなど、震災を契機に、企業が地域の支援を行おうとする動きも活発化している。しかしその場合も、支援の受け皿となる住民組織の存在が必要となる。したがって、行政、JA、企業、NPO、あるいは都市部住民などがネットワークを組んで支援し、こうしたコミュニティ組織の育成、強化を目指すことが、中山間地域の振興に向けた第1の柱となる。

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他方、組織を維持・発展させるためには財源の確保が必要であり、また、その地域に暮らす人々のための所得確保やいきがいづくりのための、経済活動が必要となる。この経済活動は、必ずしも高所得を保証するものである必要はなく、高齢者や女性を含め地域住民の多くが参加でき、組織としての持続性を担保できるだけの小規模なビジネスでも構わず、それが現実的であると考える。なお、社会環境の変化を踏まえると、今後の中山間地域においては、これまでのように、大規模工場の誘致や公的資金を活用した大規模な拠点整備による経済の活性化は考えにくい。

全国の取組を考察すると、その経済活動は、ターゲットの違いから、都市部住民を対象とした直売・加工・飲食・交流などの「6次産業化型」(外貨獲得型)と、地域住民を対象とした福祉ビジネスや購買店舗に代表される「住民生活支援型」(地域循環型)に分類することができる。前者は、3セクを中心に、これまでも多くの取組が見られたが、6次産業化施策の後押しもあって、今後さらに拡大することが期待できる。後者は、JAのコープや民間スーパーの撤退により、中山間地域で顕著化しているいわゆる買物難民対策としての取組であり、近年全国の中山間地域で同様の活動が広がりつつある。

しかし、せっかく稼いだ外貨を他地域に流出させては(都市部に行ってものを買うなど)、地域に投資すべき金の蓄積や地域循環はできない。したがって、この2つの経済活動を同じコミュニティ組織で行い、獲得した外貨を地域内で循環させる経済構造を地域内で構築することが、中山間地域の振興に向けた第2の柱となる。

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以上を踏まえると、「地域住民主体のコミュニティ組織が地域内発型の小規模ビジネスに取り組む」ことが、地域の限界集落化を食い止め、振興につながる道筋になると考える。そこで今後は、組織論、事業論の2つの軸で、創生、発展、成熟の各段階に発生する共通課題と効果的な解決策を明らかにし、地域の現状に即した振興策を講じていく必要がある。

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最近はTPP参加など、農業を単なる産業と位置付け、強い農業づくりに向けた議論に終始しがちであるが、農業を支える農山村という課題については棚上げされる雰囲気がある。流研は、農業・農村の専門コンサルティング集団として、かかる視点を踏まえ、今後も中山間の振興についても全力で支援していく方針である。