第66回 | 2011.10.03

ファームドゥに見る新たな直売事業の展望 ~KAB研報告②~

去る9月30日(金)の夜、約30名が集い、2回目の「かながわアグリビジネス(KAB)研究会、通称・KAB研を、流通研究所の1階会議室で開催した。ゲスト講師には、ファームドゥ株式会社の代表取締役 岩井雅之氏を招き、自ら実践されている直売事業についてお話を頂いた。その後は、県内における新たな農産物流通の可能性をテーマに意見交換を行い、岩井社長を囲んで、にぎやかな交流の場を持った。本日は、研究会の報告にかえて、その内容を紹介してみたい。

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ファームドゥは、農業資材を販売する店舗として1994年設立し、その後農産物直売所という業態転換を図って多店舗展開を進めた会社であり、昨年度の決算の売上高は約74億円である。同じ経営者として非常に驚いたのは、自己資本比率が約57%と非常に高いことだ。我が流研も相応の自己資本比率があるが、30%未満でありファームドゥには遠く及ばない。企業の自己資本比率が6割近いということは、借入が少なく、資本金・剰余金が極めて潤沢な超優良企業であることを示す。しかし設立から17年間の歩みは、必ずしも順風満帆という訳ではなく、試行錯誤する中で、閉店した店舗も数多くあったと言う。岩井社長は、「失敗は当り前、人間は失敗からしか学べない」という格言を残されているが、失敗の連続が現在の優良経営に結びついているのだと強く感じた。

現在は、本部がある群馬県内に12店舗、埼玉県内に3店舗、東京都(23区内)に8店舗の計23店舗で展開している。これらの店舗を支えるのが、群馬県内を中心に組織化された約5,000人の出荷者である。出荷者は大型農家もいるが、高齢農家・小規模農家が中心である。加えて多様な商工業者も出荷者となっており、オリジナルの加工食品などを数多く品揃えする店舗づくりに貢献している。「5年間で農家の所得を2倍にする」という理念のもと、地域の農家や商工業者とともに、多店舗展開を図り売上を伸ばしてきた。現在遠方の産地では、要所にデポを設置し、ファームドゥが集荷して回るシステムをとっている。集荷した農産物は基幹店舗に集められ、そこから毎日自社トラックでルート配送する仕組みをつくっている。集荷する場合は販売手数料率は約20%、さらに都内で販売する場合はプラス8%程度の手数料が上乗せされる。都内の店舗は手数料率が高い分、高い価格設定が出来るため、都内での販売を希望する出荷者も多いという。

群馬県内では「食の駅」という店舗面積450坪、駐車場150台の大型直売所を開設している。主要店舗の年間売上高は10億円を超える。まさに岩井社長らしい思考で、先ずは「食の駅」という名前が頭に浮かび、その後どのような店舗・品揃えにしようかと考えたという。スーパーのような大きな売り場に野菜がてんこ盛りで売れており、惣菜コーナーや飲食コーナーを併設することで、「食の駅」というネーミングにぴったりの店づくりを成功させた。

温泉地で有名な伊香保では約200坪の中型直売所を開設している。観光客が利用してくれる保証はなく、最初は難色を示したが、若女将の頼みごとに応える意味で施設を引き取り操業に踏み切ったという。この店舗には私も行ったことがあるが、野菜+土産品という品揃えが功を奏し、多くの観光客でにぎわっていた。最近は地域の旅館やホテルなども食材の仕入拠点として利用するようになったそうだ。観光地でも直売所が成立することをこの事例が証明している。

都内の店舗は元コンビニエンスストアであった店舗を改装し、「地産マルシェ」という名称で展開している。いずれも駅から徒歩で至近距離にあり、概ね45坪を標準規模とした都市型直売所だ。駐車場はなく、顧客は徒歩や自転車で来場し、まさにコンビニ感覚で野菜を買って行く。1ヶ月の平均売上高は約1,000万円であるという。田舎で売るより、都会で売る方が高く売れるという発想で作り上げた店舗形態だ。

「食の駅パサール」という名の埼玉県の三芳店は、高速道路のサービスエリア内にある。わずか40坪の店舗面積ながら、売上高は3億円を超えており、ファームドゥの中で最も販売効率が良い店である。近年サービスエリア内に直売所を開設しようとする動きが全国で見られるが、その先進事例であるこの店舗には、現在多くの視察団が訪れているという。

このように、岩井社長が考える直売所のビジネスモデルは毎年進化しており、常に新業態を模索している。そして現在、1年半から2年後を目処に、神奈川県横浜市への出店を計画している。店舗規模は300坪程度を想定しており、開店すれば神奈川県下で最大級の直売所となる。出荷者は、産品は従来のルートから約半分、残りは神奈川県内から調達したいというのが岩井社長の考えだ。神奈川県内からの調達となると、当然KABSに参加している農家達も当事者になる。基礎講義終了後、神奈川県出店の期待とともに、参加者から多くの質問の声があがった。

流研及びKABSとしては、ファームドゥの神奈川県出店及び県内での多店舗展開を全面的にバックアップし、KABSに集まる若手農家の有効な販路として行きたいという思いがある。しかしそのためにはいくつかの課題が残る。1つ目は、直売所特有の比較的安価な価格設定だ。KABSのメンバー達はいずれも若手の専業農家で高い技術力を持ち、個人ブランドを高めるような価格設定を期待している。検討会では、神奈川県横浜市という大型直売所が存在しない地域において、高所得者層を狙った商品展開は十分可能であるとの意見が主流であった。2つ目は、物流方法である。県西地区の農家が横浜まで毎日運び込むことは現実的に困難である。この課題に対し岩井社長からは、群馬県同様、出荷者の近くに共同デポを設け、ファームドゥが集荷して回る方式を提案された。その他にもいくつかの課題は残るが、今後情報交換や実証的な取組を重ね、KABSも出荷者の組織化・品揃えなどの面で店舗開発に参加して行きたいと考える。

岩井社長は直売事業以外にも、野菜苗・水稲苗、いちごなどの生産を担う農業法人を設立したり、農産物の独自の認証制度をつくったり、さらには食のイベントを開催したりと様々な事業にチャレンジしている。加えて、ゴルフ場を農業道場にしたり、モンゴルで農業の合弁会社を設立するなど、ぶっ飛びの夢を持っている。「夢がなければつまらない、やってみなければわからない」という格言を経営でひとつずつ実践している。この青年のような志と実行力が岩井社長のたまらない魅力である。大変忙しい中、KABS研究会の講師を引き受けて頂いたことに心から感謝するとともに、共に手をにぎり夢を追いかたちにしていきたいと思った。