第192回 | 2014.06.09

ヒット商品の開発をめざせ! ~とやまの農林水産物ブラッシュアップ検討委員会~

富山県において私は、「とやまブランド」の推進委員に加え、「とやまの農林水産物ブランドアップ」事業の検討委員も務めている。昨年度から始まったこの事業は、平成27年春の北陸新幹線の開業に合わせ、富山県産の農林水産物及び加工品をブラッシュアップし、売れる土産品づくりを進めようというものである。北陸新幹線が開業すれば、東京~富山間は2時間弱で結ばれることになり、観光客やビジネスマンの来訪者が、飛躍的に増えることが予想される。富山県では、ます寿司、ほたるいかの沖漬けなど、様々な特産品が存在するが、土産品の品揃えをさらに拡大することで、県内産業の振興につなげて行きたいと考えている。

委員長は、現在もフードアクション・ニッポンの審査委員長を務める(株)ユニバーサルデザイン総合研究所所長の赤池学先生である。また、旧知の仲である伊藤忠ファッションシステム(株)のマーケティングディレクターの吉水由美子さんも特別委員に名を連ねている。加えて県内委員として、デザイン、流通、食品の各分野から、富山県の頭脳と言われる7名の方々が列席されている。

昨年度は、事業の基本方針について議論し、その骨格を固めた。今年は、北陸新幹線開業まで1年を切る中で、具体的な商品づくりがテーマである。県内の食品事業者などから公募のあった多数の試作品から、有望な品目を選定し、専門家がプロジェクトを組んで、事業者と共に改善を重ね、売れる商品に育成していくことになる。

先日開催された今年度の第1回検討会は、石井隆一 富山県知事のあいさつに始まり、知事も時間が許す限り、試食会に参加するなど、この事業に対する富山県の本気度が伺える。当日は、全委員出席のもと、応募があった41品目を書類選考により20品目に絞り込み、試食を行い、さらに対象品目を絞り込むと言う作業を行った。おいしさ、富山らしさ、商品力、市場性、対応力の5項目で、各5点、計25点満点で採点する方式をとった。今後事務局が委員の採点表を集計し、育成候補の品目を選定することになる。

品目が多いため、検討会は2時間半と言う長丁場になった。品目は、オイル漬け、寿司、蒲鉾、珍味、菓子など多岐に渡っていた。味はどの品目も一定以上であったが、総じてインパクトに欠けると言うのが正直な感想だった。ある委員から、日常品と土産品とは求められる商品特性が異なると言った総評があったが、全く同感である。観光客は、非日常的な商品を持ち帰りたいと思うのであって、家庭の味や、そこそこのおいしさを求めている訳ではない。想定内の味では、観光客の購入動機にはつながりにくい。

私が注目した品目としては、みょうがと鱒を笹で包んだ一口サイズの寿司があげられるが、素材の味が引き出されているとは言い難かった。また、干し柿を使ったスイーツも非常に期待した品目だったが、干し柿の味は希薄だった。いずれも味が整えられており、普通においしかった。開発段階で、相当苦労されたのだと思うが、庶民の味覚に合わせようとして、素材のインパクトを消してしまっていると感じた。売れる土産品の基本的な条件は、地域の農水産物を素材に活用する、あるいは地域の食文化や伝統的な製造方法を活用することにある。しかし、その活かし方は、かなり難しいようだ。

商品の味に加え、商品のパッケージ・デザインづくりも非常に重要である。オイシックスのN1サミットでご一緒させて頂いた、四万十ドラマの畦地さんは、「ブランドとはデザインである」と言い切っておられた。地域らしさを感じさせるデザイン、商品のストーリーを読み取れるデザイン、持って帰りたくなるデザインが、観光客の購買動機につながる。この度の検討委員会でも、味の差別化が難しい商品については、デザインで勝負する以外にないと発言された委員がおられたが、その通りだと思う。デザインについては、赤池先生をはじめ、委員にプロのメンバーが多数おられる。今年の改善作業の中で、素晴らしいデザインに仕上がるものと確信している。

売れる土産品づくりのためには、適切な価格設定も重要な条件である。究極の逸品を目が飛び出るような高値で売る戦略も世の中にはあるが、全国的に知名度がある商品や、すでにリピーターがついている商品でない限り、土産品の戦略としては適切とは言えない。近年は、観光客が事前に情報を得て来訪し、最初から買う土産品を決めているケースも増えつつあるが、売場で買う物を決めるケースが未だに大半である。観光客が初めて見る商品が並ぶ売場においては、先ずは値ごろ感が重視されることになる。

また、土産品店では、売値の30~40%のマージンをとられるし、買取ではなく委託販売方式をとるところも多い。ロス率を踏まえると、小売価格の60%以内の原価で製造でき、かつ値ごろ感がある価格設定とすることが必要になる。そのためには、原価を引き下げるための効率的な製造体制も求められる。

この度の検討会で、候補にあがった20品目は、正直に言って、まだまだ未熟な商品ばかりだと感じた。しかし、富山県では、北陸新幹線開業という40年来の県民の悲願が叶う瞬間が秒読み段階に入っている。味覚、デザイン、価格、そして製造体制など、課題は山積しているが、県内の食品事業者は、「ここが勝負どころ」と気持ちを新たにし、商品の改善に取り組んで欲しい。そして、私も委員の一人として、出来る限りの支援をして行きたいと思う。