第111回 | 2012.09.03

スーパーとの持続的な直接取引を考える 生産者にとって最適な販売システムとは何か

都市部の農業においては、スーパーとの直接取引が、有効な販売形態として着目されており、取引量は年々増加傾向にあると考えられる。基本的には、生産者が毎日小分け・袋詰め・シール貼りなどを行い、自ら店舗へ配達する方法である。取引形態は買取/委託販売の双方があるが、生産者が主導的に価格をつけられること、スーパーがとるマージンも比較的少ないことから、市場流通と比べ、生産者の手取りは格段に高くなる。

しかし、袋詰めなどに加え、各店舗までの配達という労務は、生産者が全て負担することになる。一店舗当たりの、一日の平均売上高の目安は、店舗規模や品目・季節によって異なるが、概ね5,000円程度といったところだろうか。仮に、一年ほぼ毎日配達すれば、一店舗でも年間150万円ぐらいの売上を確保できる。チェーン店との取引が成約し、3~4店舗に納品することが出来れば、生産者にとって大きな柱になりうる販売チャネルとなる。

多くのスーパーが、地産地消を標榜し、生産者の顔が見える特設販売コーナーの設置を志向していることから、生産者との直接取引への要望は強く、特に都市部においては、生産者にとって売り手市場になっているケースも多い。但し、かつてのイトーヨーカ堂の様に、地産地消型の店舗づくりから「生産者の顔が見えるシリーズ」にスイッチして、これまでの取引がゼロになってしまうといったリスクもある。

ここで問題になるのは、袋詰めや配達の手間が、かなり大きな経営の負担になることだ。スーパー側としては、開店時間に合わせ、朝9時、遅くとも10時までの店舗納品を要望する。さらに、出来るだけ朝採りの野菜をもって来いと言う。この要望に応えるためには、朝4時から収穫し、6時からは袋詰め、7時半から配達という作業を毎日こなさなければならない。実際、朝採りにこだわり、何十年もこうした生活を送っている生産者を知っているが、彼らが共通して言うことには、若いときは出来ても、50歳を超えると体力的に耐えられなくなってしまうらしい。

もう一つは、取引する店舗数と作業効率の問題である。取引する複数の店舗が近隣に集中して出店していれば良いが、チェーン店などは当然、広域エリアに分散して出店している。例えば、3店舗に配達するのに、朝の渋滞もあって3時間を用するとなると、それに合わせて作業時間を前倒しせねばならず、労働時間はさらに長くなる。エリアを近隣にのみに限定し、異なる企業の店舗に配達するとなると、物流効率は高まっても、商談や代金清算などの作業に手間がかかる。

夏場の暑い時など、配達後に生産現場で作業をするには、相当の体力・気力を要する。また、配達などの作業に時間をとられてしまうため、生産にかかる作業時間が限定され、生産量を一定以上に増やすことはできない。したがって、経営規模の拡大は頭打ちで、年齢とともに体力が落ち、これに伴い取引量も縮小せざるをえない運命にある。

また、チェーン店とつきあっていると、新規出店するので、その店舗にも配達して欲しいと言う要望があがったりする。生産者としては世話になっているので、何とかしようと頑張るが、生産力は既に限界にあることから、既存の店舗への取引量を減らして、新規店舗に荷を回すといった方法をとらざるをえない。その結果、配達業務だけが増え、収入は増えないといった現象が発生する。

スーパーとの取引において、これらの課題を克服し、生産規模の拡大や、経営の持続的な発展を実現するための道筋はいくつかある。

一つ目は、センターを持つチェーン店一社と取引し、センター納品一発で配達が済むような取引を目指すことである。当然センターフィーなどがかかることから、取引単価は店舗納品より低くなるが、配達の効率は格段に良くなることに加え、数量によってはチェーン店全店に配荷され、広域の消費者を対象としたブランド化を実現できる。

私の知人もこの方法をとっているが、朝ではなく夜にセンターへ一括納品する方法をとることで、早朝から農作業に集中できるようになっている。また、チェーン店によっては、袋詰作業もセンターで行ってくれるところもある。その分さらに手取りは減るが、出荷作業が楽になった分生産量を増やせれば、生産者所得は向上することになる。

もう一つは、生産者個人ではなく、グループを作って共同配送する手法である。この場合、物流業務だけでなく、商談や出荷調整などを担うリーダーや専任の担当者が必要になる。グループ内の結束が固いこと、リーダーに高度な能力が求められることなどが条件になり、成立しにくい形態ではあるが、近年は先進的な事例も拡大しつつある。

一匹狼は、気楽だし、目先の手取りはよいし、誰に気遣うこともない。しかし、ある年齢で成長は頭打ちになり、体力・気力が落ちて、50歳・60歳と言う本来男が人生の実りを迎える年齢になってしまうと、農業経営は尻つぼみになってしまう。

若い生産者は、一匹狼で走り続け、自ら様々なことを学んで行くことも良いことだと思う。しかし、10年後20年後の将来を見据え、経営規模の拡大や法人化など視点を変えた取組や、グループによるビジネス化の研究など、新たなチャレンジも必要ではなかろうか。