第199回 | 2014.07.28

オランダの背中がすぐそこに見える? ~施設園芸・植物工場展2014より~

先般、東京ビッグサイトで開催された施設園芸・植物工場展2014、通称「GPEC」に行ってきた。今年で3回目を迎えるこの展示会は、名前のとおり「施設園芸」と「植物工場」に特化した専門展示会であり、今年は国内外から191大学・団体・企業などが出展していることに加え、3日間を通して数多くのセミナーが開催された。今年のテーマは「活かそう日本の技術力!」であり、太陽光利用型/人工光利用型の植物工場、各種センサーや計測システム、農業ITシステム、流通・加工・運搬システムなど、出展内容は多岐に渡っていた。

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農業を成長産業として捉えている企業は非常に多い。工業製品のように、栽培管理や品質管理が出来、気象条件などに左右されることなく安定収量を確保できれば、日本の農業は大きく変わる。日本が持つ多様な技術力を駆使すれば、それは不可能なことではないだろうと誰もが考える。しかし、農産物の工業製品化は思ったより進んでいないのが実状である。

特に植物工場は、設備投資を含めた費用対効果が合わないとされ、植物工場プラントを運営する多くの企業が赤字経営を余儀なくされてきた経緯がある。また、葉物野菜については成功事例も増えてきたものの、本丸であるトマトなどの果菜類での事業化への道のりは、技術的にもまだまだ遠いと考えられてきた。

この度会場を回って、いくつかのことに気がついた。一つ目は、IT技術の進化により、農業の「見える化」や「データ化」の手法が広く紹介されていたことだ。農業は農家の経験や勘に頼るところが大きい職人技と言える。したがって、どうして美味しくできるのか、なぜより多くの収量が獲れるのか、その理由を論理的に説明できる職人はほとんどいない。それゆえ、一人前になるためには長い修業期間が必要であり、担い手が育たない理由の一つにもなっている。

一方、農家のコスト管理は非常に甘い。売った金額は分かっても、どれだけのコストがかかり、どれだけ儲けたのかは分からない。データや数字に目を向けてこなかったために、計数管理が出来ておらず、企業的な経営へと発展しにくい産業特性を持つ。展示ブースでは、土壌管理や栽培管理、品質管理や出荷管理、さらにはコスト管理のための最先端の技術を見ることが出来た。これらの技術を現場に導入するためには、もちろん多大なコストがかかるが、相応の経営規模を確保できれば、人件費の削減や省力化につながり、コスト率を引き下げることが可能なのではないかと考えた。

「農産物が育つ最適な環境づくり」という視点に着眼した新製品も数多く披露されていた。例えば、ハウス内の環境づくりのために、ヒートポンプや暖房器、環境扇(扇風機)、噴霧器などの機器を導入する農家が多い。各展示ブースでは、温度管理や湿度管理、さらには二酸化炭素管理まで、自動化された省エネ型の総合システムや遠隔操作システムが、数多く紹介されてきた。また、これまで栽培によいと信じられてきた環境が、必ずしも農産物にはよいとは言えないようだ。多くの技術者達が、本当によい環境とは何かという視点で研究を重ねてきた結果なども発表されていた。

オランダは、施設園芸や植物工場の分野では、世界一の技術を持ち、高品質な農産物を世界に輸出している。しかし、オランダは、日本と比べはるかに日照条件が劣っており、農地は非常に狭い。したがって、農業環境がはるかに優れている日本で、生産者・企業・団体・大学などがスクラムを組めば、オランダを追い越すことは夢ではないといったメッセージが展示されていた。もしかしたら、10年後、20年後の農業は、施設園芸・植物工場展2014で見たような、夢のような改革・革新が進むのかもしれない。

もう一つ気がついたのは、来場者に生産者の方々が非常に多かったことだ。入場時に首からぶら下げるプレートの色で、会場において生産者であることが分かる。若手の生産者はもちろん、かなり年配の方々も連れだって来場し、各ブースでの説明に耳を傾けていた。生産者は、昔ながらの栽培技術、自分独自の栽培手法に固執してしまい、新しい技術や手法を学び、取り入れようという姿勢が総じて希薄である。しかし、他産業では日進月歩の技術革新が進んでおり、農業界でもその速度は加速しつつある。時代に乗り遅れないためにも、このような展示会に足を運び、情報を集めることは非常に重要だと思う。

とは言え、全国の生産者が、大事な農作業の手を放して、大都市で開催する展示館に足を運ぶことはかなり無理がある。したがって、生産者に常日頃接しているJAの職員、県の普及員、農業資材などの販売店の社員などが、積極的に情報収集に取り組むべきであろう。農業分野での技術革新が進む昨今、その役割と責任は高まりつつある。

会場をひと通り回ってみて、施設園芸においては、今後急速に工業化が進むのではないかと考えた。そもそも、施設園芸という栽培法自体が、気象条件や自然環境に左右されない革新的な技術である。しかし、その歴史はまだ50年程度と短く、この先第2、第3の革新が起こることが、むしろ当然と言えよう。当面、施設園芸は、「見える化」、「データ化」をキーワードに、土づくりから出荷まで、総合的な管理システムと低コスト化システムが段階的に導入されていくものと考える。また、それに伴い生産者の大規模化や法人化、企業の農業参入は急ピッチで進むだろう。

「オランダの背中がすぐそこに見える?」、それは単なる標語に留まらず、実現可能な近未来像であり、農業新時代の到来を予感させる言葉として私の胸に刻み込まれた。