第84回 | 2012.02.14

アグリトップランナーを目指せ! ~FTPS徳江氏講話より~

流通研究所が千葉県から業務を請け負っている「アグリトップランナー育成研修会」の今年度最終回が、去る2月7日に京葉銀行プラザで開催された。第一部では、大地を守る会、らでぃっしゅぼーや、マザーズなどを立ち上げ、私が師の一人として仰ぐ、現在FTPSの代表を務める徳江倫明氏を招き、「農産物の販売・流通に向けたネットワークづくり」というテーマで基調講演を頂いた。第2部では、徳江氏に加え、すかいらーく購買本部の野菜担当リーダーである森山英樹氏、全農ちば営農販売企画部長の石橋達郎氏をパネリストに招き、私がファシリテーターとなって「販売先とのネットワークづくり」というテーマでパネルディスカッションを行った。また、その後は受講生達を交え、講師陣と交流会を行った。どれもとても面白く、有意義な内容であったが、その中で本日は徳江氏の講義内容について紹介したい。

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現在関東地方で農業生産法人の若手の2大巨頭は誰かと問われれば、和郷園の木内氏、野菜くらぶの澤浦氏と答える方が多いのではないかと思う。その昔、徳江氏がらでぃっしゅぼーやを経営していた頃、木内氏も澤浦氏も徳江氏を訪れたと言う。当時から3人はとても斬新な思想を持っていたが、出会いを契機にらっでぃしゅぼーやとの取引が始まり、その後周知の通りの躍進が始まる。出会った当時から3人は、地域貢献、後継者育成、直接取引、減農薬農法等、当時としては斬新な発想を持っていた。昔は、あまり着目されなかった農業経営、あるいは販売形態が、20年の時を超えて現在はスタンダードになっている。先見の明を持っていた3名が、現在の農業モデルを作ってきたと言っても過言ではない。

1970年代は、公害が社会問題となり農薬の危険性について取りざたされ、初めて有機農業という発想が生まれる。その後の歴史を見ると、1986年にはチェルノブイリの原発事故が発生し、環境ホルモンの問題が浮上し、2000年からはBSEや雪印の偽装事件、中国の残留農薬事件など、食の安全に関する問題が次々に発生してきたことがわかる。そして2011年は、東日本大震災に伴う放射能汚染問題が日本の食の安全の根幹を揺るがせ、残念ながら、被災地における農産物のブランドは大きく失墜した。「予防の原則」が働き、消費者は危ないと思われるものは買わないし食べない。こうした心理が風評被害につながっている。そこで生産者も、「予防の原則」に従い、危ないと思われる農薬は買わない使わないという考え方が必要であり、また、安全管理なしでは農業は出来ない時代になったことを認識して欲しいと力説された。

以前は情報を秘匿することで価値や利益を生み出すケースもあったが、現在は情報を秘匿すればするほど人は逃げていく、勇気を持って情報を公開すればするほど、人は寄ってくる時代へと変わってきたという。今までスーパーも外食チェーンも市場で農産物を購入してきたが、何かあれば販売責任を問われることから、出所がわかない農産物は怖くて取り扱えなくなった。そこで生産者は生産履歴を明らかにし、フードチェーンの中で生産者、中間事業者、加工業者、外食店、小売店などが、それぞれの役割をきっちり果たし、手渡しでつなげて行くことが大切であると話された。安全管理をしっかり行い生産履歴を公開することは、農家の社会的義務であり、義務を果たせない農家は、今後は流通サイドともまともな取引ができないばかりか、社会的に抹殺される時代になっていくことだろう。

講義の後半は、受講生達に、アグリトップランナーになるための心得を伝授された。
「自分で価格を決め、販売することが経営の基本である」、「安全・環境・品質がセールストークの基礎になる」といった話から始まり、売るための基盤として、「地域で継承されてきた生産技術」、「適地適作」、「適時適作」、「品種の選定」が大切であると話された。

また、アグリトップランナーを目指にあたり、全国流通か地場流通かを選択する必要があると言われた。野菜くらぶを始め大規模生産法人の多くは、生産品目を絞り込み、群馬・青森・静岡など多産地で生産してリレー出荷体制を組み、全国流通を志向している。一方、地域の直売所を核に、多品目をつくり流通経費を圧縮して付加価値をあげる経営も、特に都市近郊にあたっては有効である。売上3,000万円より、確実に所得1,000万円を目指すための経営モデルを各自が選択して欲しいと言われた。また、1束いくらではなく、反あたりいくらの所得を稼ぐかという発想が必要であり、目先の市況・価格で経営を考えるのではなく、グロスで判断する経営視点が重視される。さらには1日当たりの出荷額といった発想が大切であると講義された。

「プロダクトアウトとマーケティングインの真ん中を狙うべきである」という話も興味深かった。農業は気象条件等外部要因で左右される製造業であり、全て実需者や消費者のニーズに応えていくというマーケティングイン100%展開など出来る訳がない。ニーズを踏まえつつ、実需者や消費者に理解してもらえるよう、伝えていく姿勢が大切であるという。ネットだけでは売れないし、直接取引だけでも商売にならない。市場流通をうまく使ってグロスでのマーケティングミックスによる所得確保に努める。中間流通無用論は幻想であり、世界的にも最も高度な流通の仕組みである市場流通を活かすことが大切であると話された。

今後は、生販同盟、農商同盟という発想が必要になる。どこと組むかによって、求められる品質・数量・物流方法は異なる。食の安全を基礎に、販路別、用途別フードチェーンを構築する必要がある。量販小売、外食・中食、会員販売、通信販売、直売等によって異なるが、その中でFTPSは生販コーディネーターを目指している。そして、生販同盟締結にあたっての戦略的パートナーシップの共通化の5原則とは、目的の共有化、顧客の共有化、情報の共有化、仕組み(システム)の共有化、成果の共有化である。自分で全部売ろうとせず、農家が主体的に働き掛けて、中間流通を育てて行く姿勢が大切であると締めくくられた。これまで、いくつもの農産物流通モデルを自ら作られた、徳江氏ならではの講演であった。

多忙の中、講師を快く受けて頂いた徳江氏はじめ、森山氏、石橋氏に、改めて心から感謝申しあげる。今年度も県及び農林事務所の方々には、大変お世話になった。また、この事業で講師または現地指導でお世話になった多く方々にも、お礼を申しあげたい。そして、これまで受講された200名以上の農家達に、大きなエールを送ると共に、流通研究所は今後とも可能な限り受講生の皆さんを支援していくことを約束して、本日の報告を終わりたい。