第208回 | 2014.09.29

さらなる6次産業化に向けて ~農村レストランにチャレンジしよう~

私の趣味の一つは、料理を作ることだ。とは言え、凝った高級料理を作るのではなく、メインの食材は自分の畑で調達し、あまり手を掛けずに、極端な言い方をすると、焼くだけ、煮るだけ、茹でるだけの料理をつくる。季節の恵と素材のおいしさを楽しむためには、過度な調味料を使ったり、妙に手間隙かけたりしない方がよい。100坪の畑で年間を通して20種類以上の野菜を作っていることから、野菜は毎日大量に食べることになる。厚生労働省が示す、1日あたり350gの摂取量は軽く超えているだろう。

ちなみに、我が家では、昼も夜も、平日も休日も私が料理を担当してきた。こうなると、趣味ではなく、ほとんど家事だが、それでも料理を作ることは好きだ。こんな親父の後姿を見て、息子は、カンブリア宮殿でも放映された辻調理学校に進んだ。来年の4月からは、大手のホテルチェーンへの就職が内定しており、本格的に料理人の道を歩むことになる。10年経ったら箱根あたりに一緒に店を持つことが、私と息子の将来の夢だ。

農林水産省は、6次産業化を積極的に進めているが、その事業モデルの一つとして「農村レストラン」があげられる。地域で採れる農産物などを食材として、農家の食卓をイメージしたレストラン形態である。しかし、農産物直売所は誰でも取り組め、その数は全国で1万件を超えると言われているが、農村レストランにチャレンジする地域や農家はことのほか少ない。その理由は、一定以上の調理技術や相応の経営ノウハウが求められるからであろう。確かに、競合が非常に厳しい飲食店業界の中で、素人が支持され続ける店づくりに取り組むことは、容易なことではないだろう。

私がかつて支援した農村レストランでは、鹿児島県の「道の駅すえよし」の「四季菜」が分かりやすい成功事例と言える。この地域は、露地野菜を中心に圧倒的な生産力を誇る一方、肉用牛、養豚、養鶏の生産者も非常に多い。農畜産物直売施設に併設された農村レストランは、昼・夜ともにビュッフェ方式をとる2毛作店である。昼は男性1,000円、女性900円で、約50種類以上のメニューが食べ放題である。夜は一律1,380円で、しゃぶしゃぶの食べ放題という店舗運営を行っている。平日の昼からいつも行列が出来る繁盛店だ。直売所の利用者やドライバーはもとより、近隣の主婦や会社員などの固定客も多い。

では、農村レストランを成功させるためには、何がポイントとなるのであろうか。その答えの一つが、農産物直売所の成功にある。農産物直売所は、高い経営ノウハウと資金力を持つスーパーなどが競合相手であるが、スーパーには負けない特長を持つ。すなわち、産直により、鮮度が高く、完熟でおいしく、生産者の顔が見える農産物を提供するなど、ス-パーでは出来ない運営を実現していることだ。つまり、農村レストランにおいても、こうした特長を最大限生かすことが、成功に向けた最大のポイントとなる。

農村レストランは、農産物直売所と併設していることが望ましい。私が、自分の畑で食材を調達するように、隣にある農産物直売所で食材を調達して調理することが、オペレーションの上で最も効率的で、旬の食材を厳選することが出来る。ここで注意して欲しいのは、直売所での売れ残りを食材として有効活用するという考え方だ。私はこうした考え方に断固反対であり、このような農村レストランは早々につぶれると断言する。もちろん品目にもよるが、しなびた食材を利用しておいしい料理が出来る訳がないし、消費者に対しても、飲食店業界に対しても背信行為に他ならない。鮮度が高く、完熟した旬の食材で調理するからおいしいのであって、そうした料理をお客さまに提供して喜んでもらうことが農村レストランの使命である。

加えて、極端な規格外品を食材として使うこともNGである。夏の盛りを過ぎたあたりから、直売所ではやたらと「焼け」や「傷」が多い「なす」が並ぶ。程度にもよるが、「焼け」や「傷」が多い農産物は、総じてまずい。また、奇形や大きすぎるもの、小さすぎるものも総じてまずい。健康に育った農産物は、概ね規格の範囲内に収まるし、食べてもおいしい。不健康でまずい農産物を使っても、おいしい料理はできない。それは農家が一番よく知っていることだ。

農村レストランの運営では、ビュッフェ方式(バイキング方式)がお勧めである。一人当たりの料金を固定し、何種類もの料理を用意し、セルフ方式で食べ放題というやり方である。季節ごとに地域の旬の食材を活用した多様な料理ができる、接客要員が少なくて済む、注文→調理→上げ膳→下げ膳というオペレーションが不要である、原価管理・在庫管理が容易であるなどのメリットがある。また、プロの料理人でなくても、比較的誰でもチャレンジでき、地域の女性グループなども運営主体になれることも特長である。

しかし、ビュッフェ方式で成功するためには、いくつかの条件がある。条件の1つ目は、メニューの開発力であろう。ビュッフェ方式では、最低20種類以上のメニューを並べる必要がある。地域食材を活用するため、毎月のようにメニューが必然的に変わる。そこで、スタッフとなる地域女性の英知を活用した、メニュー開発力が成否を分ける。成功している事例を見ると、毎週のように企画会議・試食会をやっている。ここで留意すべきなのは、個人の力量に任せるのではなく、複数で味・内容をチェックし、改善を重ねることだ。リーダーが作ったメニューでも、まずいものはまずいと言い合って、改善していかなければ、利用者にまずいと言われ客離れを起こすだけだ。

2つ目の条件は、、昼間の時間帯に相応かつ安定した利用者が見込めることだ。ホテルの朝食で、ビュッフェ方式が多い理由は、宿泊客数=利用者数があらかじめ分かっているからだ。したがって、比較的交通量や商圏人口が多い立地や、道の駅など立ち寄り率が高い施設などが有望である。私の経験から言えば、昼間3時間で100名以上の利用者を確保できないと、ビュッフェ方式の経営は成立しない。平均客単価が1,000円だとすると、昼間だけで10万円の売上を上げる計算だ。利用者・売上が少ないと、食材原価・人件費などのコスト比率が上昇してしまい、利益を確保しにくい収支構造になる。

農産物直売所に農村レストランを併設するためのマーケティング調査は、比較的簡単である。現在運営している農産物直売所の、平日・休日別の11時~14時の利用者数をPOSデータから調べればよい。流通研究所がこれまでにやった調査や私の経験では、農産物直売所利用者の概ね30%が農村レストランの潜在的な利用者になる。例えば、3時間の利用者が200名ならば、利用者は60名程度にとなると考えられる。また、農村レストランが出来た場合、農産物直売所との相乗効果が生まれ、潜在的利用者はその2倍程度(120名)まで期待できる。農産物直売所の利用者を対象に、アンケート調査を行うと、より精度が高いマーケティング結果を得られる。

3つ目の条件は、施設の規模である。昼間の3時間で、利用者は最大2回転する。ビュッフェ方式は、料理が出来るまでの待たせる時間がかからない一方で、利用者が何度もおかわりのための足を運ぶため、滞留時間が40~50分と思いのほか長い。4人掛けのテーブルに2~3名しか利用しないケースも多いことから、例えば50席のレストランではその7掛けの35名の利用がマックスであると考えるのが業界の常識である。したがって、仮に2回転するとして、100名の利用者を確保したい場合の必要席数は72席であり、余裕率を考えると80席以上欲しいところである。ちなみに80席を確保する施設面積は、食材陳列コーナー約30㎡+客席1.5㎡×80席+厨房など(客席面積の40%)などで計算でき、この場合の建築面積は200㎡となる。

農村レストランにチャレンジすることは容易なことではないし、経営上のリスクは低くはない。しかし、農村レストランは、地域の農業振興の拠点となり、利用者に対する食育の場となり、商品開発やブランディングの場になる。さあ、さらなる6次産業化に向けて、農村レストランにチャレンジしよう。