第246回 | 2015.07.27

これからどうなる稲作経営  ~ 全国農業新聞特別号より ~

7月24日の全国農業新聞では、稲作経営特集が4面に渡り組まれており、専門家達のするどい視点で生産から消費までの最新動向や今後の見通しなどが整理されている。今後の稲作経営を考える際に大変参考になるので、私見を含めてその内容を紹介してみたい。

1面は、旧知の間柄でもある農林水産政策研究所の平林光幸氏の報告が紹介されている。離農が加速し農地の流通化が一気に進むことが予想される中で、地域での多様な連携が進みつつあるという内容だ。岩手県や新潟県などの米どころでも、離農と流動化に伴う中核的な担い手の規模拡大が急速に進んでいる。こうした状況の中で、畦畔の草刈りなど管理作業の負担増、規模拡大に伴う機械・施設への追加投資、雇用者の拡大など、担い手農家に新たな課題が発生してると平林氏は言う。

こうした課題への対応策として、地域の農協や自治体などをビジネスパートナーと位置づけ、地域連携の中で個々の経営発展を模索する動きが生まれつつある。畦畔の草刈り作業の負担増という課題に対しては、地主に作業を再委託することで、農地の貸し手=農作業の受け手という構図をつくろうとする動きが見られる。機械・施設への追加投資という課題に対しては、農協のカントリーエレベーターを大規模農家が共同で借りることで、投資負担を軽減している。また、雇用者の拡大という課題に対しては、周年の作業確保のための6次産業化を進める上で、不足する原料を地域の複数の農家から調達するなどの取組が始まっているという。

第2面・第3面は、農業・食品産業技術総合研究機構・近畿中国四国農業研究センターの長田健二氏の報告で、気象条件の変化を踏まえた栽培管理の留意点や対応策について記載されている。昨年夏から始まったエルニーニョ現象が現在も継続している中で、今年はいもち病をはじめとした病虫害に発生に対する注意が必要であるが、低温・高温対策として、各地で耐久性品種の開発が進んでいる。一方、国の政策を受けて、主食用米から飼料米へ転換する動きが加速する中で、耐病性・耐倒伏性が強い飼料用米専用品種の開発も活発化しているといるという内容である。

第4面は、(株)グレイン・エス・ピーの八木俊明会長の報告で、近年に例を見ないほどに見極めづらい状況になっている、2015年産米の流通動向・販売動向にかかわる報告である。価格動向については、全農の飼料米対策の強化と米穀機構の市場流通からの隔離対策などにより、収穫当初はある程度の価格がつく可能性はあるものの、基本的に需要は減少傾向にあることから早い時期に軟調傾向に移行するとしている。

米の販売ルートは年々多様化しているが、消費者の購入経路の第1位は圧倒的にスーパーで、その割合は50%を超えている。しかしスーパーでは、以前ほど米が売れなくなり、相変わらず価格訴求が主な販促活動で、逆に価格を引き下げる元凶になっている。一方、ネット販売や生産者直売などは伸びているが、その割合はそれぞれ9.5%、4.1%と少なく、需要や価格の下支えをする存在とはなり得ていないのが実状である。

その中で、八木氏は2つのことを提言している。ひとつ目は、機能性表示の解禁を受けて欧米のように、アレルギー対策となるグルテン(小麦のタンパク質)フリーという米の特性を宣伝してはどうかというものだ。2つ目は、米の輸出において、炊いて食べるという日本米の特性や文化を輸出先国に押し付けるのでなく、長期的な視点を持って輸出先国の食文化などを踏まえた提案型の取組を強化すべきだというものだ。このままでは、国内消費はじり貧だし、輸出にも大きな期待は持てないことから、新たな視点で挑戦していく姿勢が必要であるとしている。

これからの稲作経営をどうのように考えるべきか、極めて難しい話である。稲作農家の実状を見ると、高齢化と米価低迷で、多くの地域が投げやり状態に陥っているように感じる。稲作経営を考える上で、いくつか明確に言えることがある。その一つ目は、国内需要は恒久的に減少し続けるという点である。人口減少と高齢化は、今後何十年も続くし、以前のように日本人が大量の米を食べるような時代は二度と来ない。

その一方、米の生産量・供給量はどうなるのか。担い手への農地集積が進むとはいえ、稲作農家数の減少のスピードの方が速く、また飼料米への転換も段階的に進むことから、生産量もまた減少することは間違いないだろう。農家の自家消費や縁故米の流通量は、現在全流通量の16.9%にのぼり、通販などの割合を大きく上回る。この流通の大部分を担っているのは小規模農家であると考えられるが、小規模農家の減少と共に、この16.9%という数値が近い将来一桁台になることは間違いない。その証拠にこの5年間で、この数値は23.5%から6.6ポイントも減少している。

今後、米の需要を支えるのは、市販用・家庭用ではなく、業務用ではないかと考えられる。外食産業や給食産業は頭打ちながら落ち込みはないし、中食産業は依然拡大基調にある。大規模農家や農業法人の多くは、業務用米の生産を強化しているし、米穀卸売業者も業務用米の取引に力を入れている。やがて、米は家庭で食べるものではなく、外食・給食・中食で食べるものという時代が訪れるのかもしれない。

では、需要も生産も減少する中で、米の価格はどうなるのだろうか。米価に影響を与える他の要素としてTPPの締結によるミニマム・アクセス枠の拡大があげられる。現在は、米の流通量の約1割にあたる77万トンの米が非関税で輸入されており、加工・業務用途や備蓄米用途として利用されている。TPP交渉では、米の完全自由化はしないかわりに、ミニマム・アクセス枠を拡大する方針で決着するとみられる。米国の要求は20万トンの増加であり、他国も同様の要求を掲げてくることが予想されることから、米価の下落を促す要因になる公算は強い。

私は経済学者ではないので、明確な根拠を示すことは出来ない。しかし米価はまだまだ下がりそうだ。その中で、多くの小規模農家は稲作経営を放棄するだろうし、一方で大規模農家や農業法人は増加するだろう。その中で、自ら有利販売先を持ち流通経費を圧縮できる都市近郊農家と、系統流通に依存せざるを得ない大規模産地の農家では、収支モデルは異なってくるが、双方ともに経営規模の拡大には限界があると思う。それが1俵7,000円なのか8,000円なのか分からないが、それぞれの限界規模の中で、持続的経営が可能な価格が底値となるのだと思う。

規模の拡大はもとより、米+αの経営形態への転換、ブランド化や安定した販売ルートの開拓、飼料米との複合経営、業務用米の強化、6次産業化、さらには地域連携など、稲作経営の取組課題は盛りだくさんだ。少なくも、米価の下落を嘆くだけで、今までと同様の経営をやっていたのでは生き残れないことは確かである。時代の流れの中で、駅前の商店街の多くがシャッター通りになってしまったが、全ての商店が廃業した訳ではなく、創意工夫を凝らし逆に発展している商店も多数ある。激動する時代の中で、あらゆる可能性にチャレンジし続ける稲作農家だけが、次の時代の主役になるといえよう。