第121回 | 2012.11.26

かながわ型のアグリビジネスをかたちにしたい ~KABS経過報告~

昨年度、神奈川型のアグリビジネスを創生することを目的に立ち上げた、「かながわアグリビジネスステーション(通称・カブス、KABS)は2年目を迎え、今年は事業化に向けた研究及び実証実験に取り組んでいる。正直申し上げて、試行錯誤を繰り返しており、進むべき方向性は未だ定まっていないのが実状である。本日は、これまでの取組経緯や今後の方針などについて報告しておきたい。

昨年度の研究成果を踏まえ、基本的なフレームは、県内の篤農家がつくる農産物をブランド化し、デザイン会社や物流会社などとの提携により流通研究所が一元的に多様なチャネルへ供給することで、価値ある商品を適正な価格で県内消費者に提供しようと言うものである。こうした取組により、生産者と消費者の相互理解を深め、フェアトレードの精神を基本に、食と農を通した持続性のある仕組みをつくって行きたいと考えた。

なお、誤解を招かないよう申し上げておくが、本事業に流通研究所が取り組む目的は、流通研究所が本業を捨て流通業をやろうと言うのではない。流通研究所は、あくまで農林水産業の日本一のコンサルタント集団を目指す。しかし、実践論を重視したコンサルティングを展開し、社会に我々の主張を情報発信するためには、自ら信念とするビジネスモデルを持つべきだと考えている。

ninokenn_122_01
ブランド名は、私の思いから「金次郎」とし、至誠、勤労、分度、推譲の尊徳思想を持った篤農家たちがつくり、提供する農産物というコンセプトとした。プロのデザイナーに依頼してロゴやパッケージを作成し、現在のところ、「金次郎米」、「金次郎味噌」の商品化にこぎつけた。また、KABSのメンバー約10名に取材を行い、メンバーごとのデータベースを作成し、「金次郎野菜」のラインナップ化を進めて、企画書として整理したところである。

ninoken_122

今年は、あらゆる販売チャネルにアプローチしようと考え、先ずは県内で多店舗展開するスーパー2件へ意見聴取に伺った。県内のハイグレードの顧客層を持つ店舗で、インショップ方式の「金次郎コーナー」を設置出来ないものかという仮説を立てた。しかし残念ながら、いくつかの理由で、この販売方式は、すぐには成立しないことが分かった。

先ずは、消費者に「地場農産物=割安」という概念が定着してしまっていることだ。実際には市場流通の方が経済的であるが、中間流通が圧縮されるため、多くの消費者は安かろうと考えてしまうようだ。2つ目の理由は、一年を通して安定した数量が確保でき、豊富な品揃えはもとより、旬の演出ができるような商品構成が必要なことだ。将来的に出荷者が増え、計画出荷・計画販売ができれば可能であるが、時間がかかる取組である。3つ目の理由は、店長裁量によるところが大きく、常に密接な情報交換が必要であることに加え、店長が代ってしまった場合、それまでの取扱方針が継続されるとは限らないことだ。

このような課題から、スーパー側にとっても地場農産物は欲しいものの、しっかりした仕組みづくりは難しいそうだ。その結果、近隣の農家が個々に農産物を持ち込む方式か、センター納品を原則に単品での取扱に限定する方式をとるケースが多い。

話は変わるが、先般県技術センターの指導事業で、とても素晴らしい篤農家に出会った。この方は流通研究所の所在地と同じ神奈川県厚木市内在住で、野菜類を中心に、全て自家生産した種・苗でオリジナル品種を栽培し、県内のスーパーや卸売業者、飲食店などへ直接販売している。生産現場も見せてもらったが、農業に打ち込む情熱、きっちりした性格が一目でわかるような農地だった。おいしい農産物をつくりたいという強い思いは、自ら種から作ることという結論に至ったそうだ。品質の高さに加え、オンリーワンの品種であることから、当然他の農産物とは差別化でき、注文は殺到している。

こだわりの農産物を作っている点は、KABSのメンバーも同じだ。しかし、ブランド化するためには、そのこだわりを消費者に分からせることが重要だ。「金次郎ブランド」はこれまで、理念先行型のブランディング手法を考えていたが、理念だけでは消費者には理解してもらいにくい。理解してもらうために最も有効な手法は、「明らかにものが違う」ものをつくることであり、「種から違う」ことがその究極の手法であろう。今後のKABSの展開では、こうした視点も取り入れて行こうと思う。

将来的には、多くのスーパーでの「金次郎ブランド」農産物のコーナー設置まで考えて行きたい。しかし、実績・実力が不足している現在、先ずは小さな取組を積み重ねて行こうと考えている。また、流通研究所としての事業採算性を検証しつつも、これにとらわれず、大火傷をしない範囲で多様な先行投資を続けて行こうと覚悟を決めている。

「金次郎米」、「金次郎味噌」については、この12月からカタログ販売会社と提携し、実証販売をはじめる。スーパーに限らず、イベント販売や直売所での販売など、様々なチャネルでの取扱も検討して行きたい。また、販売事業だけではなく、消費者のネットワーク化に向けた交流・体験事業など、BtoCの仕組みづくりも併せて検討して行きたい。

さらに、生産者の組織づくりについても検討したい。神奈川県の生産者の弱みは、個々の取組は光っていても、組織として交渉力・供給力が不足している点にある。組織化の究極の姿は、県内の地域を超えた広域農業法人を設立することだと考えている。ビジネスモデルは違うと思うが、神奈川県型の和郷園や野菜くらぶを、KABSと一緒に設立したい。それが私の夢である。しかし、法人化自体も全く進んでいない県内において、一足飛びに行く訳がない。昨年は、秦野市の(株)大地と言う生産法人の設立を支援したが、同じような手法で、生産者とひざ詰めで新たな法人設立に向けた検討を重ねて行きたい。

このように、KABSの取組は遅々としており、メンバーの方々には申し訳なく思っている。しかし、その動きを止めることはしないし、その歩みが亀のようでも着実に一歩ずつ前進して行く。次回の報告に期待して頂きたい。