第166回 | 2013.11.06

「40年間続いた農政との決別」をチャンスに! ~農村集落や農家が起こすべきアクション~

前号では、政府の産業競争力会議の農業分科会で、減反政策(コメの生産調整)や交付金制度の廃止を提言し、これに対し、農林水産省側は5年後をめどに減反廃止を含めた見直しを検討する考えを示したことを記載した。それから僅か数日後、今度は農林水産省が、減反制度の廃止案を自民党に提示した。自民党政権に移行してから、農林水産省の内部で着々と用意してきた新政策が、一気に表面化する様相を呈している。先ずは、この度の農林水産省の減反廃止案の骨子を整理してみよう。

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これらの制度の見直しは、40年間続いた農政との決別を意味する。その前日、JA全中が、政府が引き続き生産調整に取り組み、コメの直接支払交付金の仕組みを維持するよう、農林水産省に要請した。しかし、政府と与党による合同会議では、強く反対する声はあがらず、この政策案をベースに、とりまとめが進む見通しである。今後反対派の圧力から、具体的な制度設計などにおいては調整が難航することは予想されるが、基本方針は変わらないだろう。

例えば、米価の下落時に補てんする米価変動補てん交付金は、「収入保険」という名称で、認定農業者と集落営農組織、認定就農者などに絞って出すという政策転換が議論されている。現在、全農家戸数約250万戸のうち、稲作単体または稲作中心の複合経営を行う認定農業者は約84,000経営体、集落営農は約13,000組織が存在する。全農家の4~5%に過ぎない大規模な生産者や意欲ある担い手・集落に支援を厚くする一方、これまでバラマキという批判を受けてきた零細農家や兼業農家への直接支援は廃止していくという考えが基本にある。

一方、従来の「農地・水保全管理支払制度」は、「日本型直接支払制度」という名目で、発展・拡充する方針である。農振農用地域内の農用地に対象を限定し、集落などの活動組織に活動内容に応じて直接支払を行うというものだ。大規模農家の育成という目標に、異論を唱える人は少ないだろう。しかし、大規模農家や農業法人は、農業基盤である用排水路や農道などの保全・管理活動にまで手が回らない。

これまでこうした活動は、零細農家・兼業農家を含めた集落の人々が、代々受け継いできた。しかしこの度の農政改革は、零細農家・兼業農家の切り捨てを意味し、農業を主業とする担い手は育成出来ても、農業基盤の守り手を死滅させる可能性がある。例えば、大規模農家に30町歩を集積して効率的な経営を目指しても、河川が草と藻であふれ、水を思うように引けず、また排水が滞って湿田になってしまい、結果として地域ぐるみで収量があがらないといった結果を招くこともあるだろう。また、草刈りをしない閑地が増え、カメムシなどが大量発生するようなこともあるだろう。

こうした意味でも、「日本型直接支払制度」は、一連の農政改革の中で極めて重要な役割を果たすことになる。しかし、自分でコメをつくらなくなった零細農家や兼業農家は、モチベーションが低下することから、集落維持活動に積極的に参加させることは難しいかもしれない。また、非農家中心の自治会や他の地域団体、さらには次世代の若者たちが、どこまで活動に協力してくれるか疑問である。

私ごとになるが、私の集落では今でも、地域ぐるみで江ざらいや道普請、神社・公民館の清掃活動などを行っている。昔は地域住民の多くが農家であり、当たり前のようにみんなでやってきた活動であるが、時代が流れ世代交代が進む昨今、「江ざらいは市役所の仕事だ」、「政教分離の中で神社の清掃を地域住民が行うなんておかしい」などと言う人が急速に増えている。この度の政策転換により、「なぜ、一部の大規模農家のために、地域が協力しなければならないのか」という声は高まるように思う。かつては農業=集落であったものが、農業VS集落という対立構造さえ生みだす可能性も否定できない。

一方、私の集落ではこの秋、3町歩のコメを作っておられた中核的な農家の方が、突然亡くなるという不幸な出来事があった。刈り入れ直前のことで、私たちの農業法人(株)おだわら清流の郷のメンバーをはじめとした有志が急きょ対応し、何とか事なきを得た。農家の高齢化、担い手不足は今後も止まらないし、こうしたアクシデントは、全国どこの地域でも急速に拡大することだろう。

農林水産省がこの度提案した改革案を見て、今後、農村集落や農家が起こすべきアクションの方向性を確信した。その具体案の一つとして、「地域住民参加型の集落営農法人」の設立あるいは改組を提案する。私が考える集落営農法人とは、農家だけでなく、地域の非農家や企業なども出資し、地域の農業と集落活動を担う法人組織である。生産法人の資格要件をクリアするために、参加する非農家や企業などは議決権を持てないが、それぞれの経験・技術・ネットワークを活かして、農業法人経営の高度化・多角化に寄与すればよい。そして、この法人組織は、認定農業者として地域農業の中核的な担い手となり、「収入保険」の交付対象となることに加え、地域活動の中核的な担い手として、「日本型直接支払」の交付対象にもなる。強化されるすべての支援策を取り込み、組織・活動の発展につなげることを考えたい。

農村集落や農家が今後起こすべきアクションは、これだけには留まらない。地域によっては様々なビジネスモデルや活動モデルが考えられるだろう。この度の農政改革は、農村集落に大きなダメージを与えるだろうし、多くの地域で農村崩壊が進むだろう。しかし、これをチャンスと捉え、制度をうまく利用し、新しい仕組みを創造していくことを考えるべきであろう。時代の流れを嘆いてばかりいても何も前進はない。ピンチをチャンスに変えるだけのパワーは、多くの農村に今も残されているものと信じたい。