第91回 | 2012.04.09

「人・農地プラン」を活用せよ!   ~農林水産省の平成24年度の重点施策~

この4月5日に成立した平成24年度の当初予算の中で、農林水産省は「人・農地プラン」(地域農業マスタープラン)を重点施策と位置付け、関連事業を盛り込んだ。「人・農地プラン」とは、今後、更に農業者の高齢化や後継者不足などにより耕作者が減少し、農地の荒廃が進むことが懸念される中で、将来の集落の農業の姿や農地の利用方法について、地域のみんなで話し合い、地域の担い手と担い手に集積すべき農地を定める計画である。農地の出し手と受け手、双方に支援策を講じて農地の集積を促進することが狙いである。そのために、農地の受け手である地域の担い手を、大規模化を目指す中核的な農家と、新規就農者を位置付けて、それぞれ厚い支援策を講じていく制度である。市町村がマスタープランを作成する場合の事業費として、総額約7億円の予算を確保している。

平成23年度の戸別所得補償制度では、受け手(戸別所得補償制度加入者)が農地を規模拡大した場合、10アールあたり2万円の「規模拡大加算」を受けることができるようになった。一律的なばらまきではなく、大規模化を目指す農家に対しては、優遇していこうという措置である。TPP問題をきっかけに、小規模農家や兼業農家も含め「全ての農家が担い手である」という、護送船団方式と言われた考え方を改める時が来たと言える。しかし、規模拡大加算の交付要件は、新規に利用権設定が行われたものであること、存続期間が6年以上の農地利用集積計画に基づいて利用権設定が行われたものであること、利用権設定に係る農地が農用地区域内であること、面的集積(連坦化)されていることなど厳しい内容であった。特に、面的集積についてはかなりハードルが高く、地域での調整に手間がかかり、思うように集積が進まない状況にあった。

この度のプランは、平地で20~30ヘクタールの大規模農業の育成、新規就農者の倍増を掲げる「食と農林業の再生のための基本方針」を踏まえ、これより5年間の行動計画が始まることを見据えたものである。そこで、このプランでは、戸別所得補償制度の規模拡大加算に要件を緩和することになった。プランで定めた担い手への集積計画の範囲であれば、現在耕作する農地と接していなくても、「面的集積要件(連坦化要件)」を満たしたことにして、交付金の対象にすることになった。農地利用集積円滑化団体(市町村、市町村公社、農協、土地改良区、地域担い手育成総合支援協議会など)を通じて集積した農地に利用権を設定して規模拡大した場合は、平成23年度の制度同様、10アールあたり2万円を交付する。さらに、認定農業者の場合、「スーパーL資金の当初5年間無利子化」といった支援を受けることができる。平成23年度は、戸別所得補償制度の規模拡大加算に約100億円の予算がついている。

もう一つの担い手である新規就農者向けには、新規就農者確保事業による「青年就農給付金」が用意されている。プランで農地受け手として位置付けられた原則45歳未満の新規就農者に、年間150万円を最長5ヵ年給付する。農業所得が安定するまでの支援を充実させることで、農地の受け手を確保することが狙いだ。基本的にいわゆる「親元就農」は対象外だが、親から経営を継承したり、親とは違う分野を独立経営した場合は対象となる。本年度の新規就農者確保事業には、約130億円の予算がついている。

そして農地の出し手に対しても、「農地集積協力金」は農地の出し手向けの支援措置を新設した。所有する一部の農地を提供した場合、1戸当たり30~70万円を交付する。出し手に対する支援を厚くし、農地集積を促す。また、贈与税猶予の特例も新設し、農地を貸し付けても納税猶予が継続されるようになった。本年度はこの協力金に65億円の予算がついた。

以下は、農林水産省のホームページの内容を掲載する。きれいにまとまっているので、参考にされたい。

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私は、この度の「人・農地プラン」はかなりの効果が期待できる制度である考えている。最悪のばらまき政策であった戸別所得補償制度の導入により(私は所得補償制度は賛成だが、「戸別」という政治的な表現が許せない)、農地集積の流れが一時ストップしていたと言える。しかし、「人・農地プラン」により、農地集積と担い手の育成がかなりのスピードで進んでいくものと予想する。多くの地域で、農家の高齢化が進み、現在の営農体系は崩壊の危機に瀕している。もう、誰かに農地を任せようと思っていた高齢農家などが、戸別所得補償制度で交付金をもらえることになったことから、この3年間頑張ってしまったと言うのが実状である。しかし、本年度からは、農地を手放したら農地集積協力金がもらえるし、納税猶予も継続できる。積極的に農地を手放していこうと思う農家は、ことのほか多いのではないかと思う。

釼持一族が500年農業を営んできた神奈川県小田原市の旧曽比村でも、農地集積に向けた新しい動きが見られる。これまで地域の稲作を担ってきた先輩達が、高齢化などによって農業を継続していくことが困難になってきており、今後耕作できない農地が急速に発生することが予想される。そこで地域の若手農家(60歳代中心)が、法人化などを見据えた組織をつくり、こうした農地を引き受け、生産から販売までを一元的に担っていこうと考えている。法人化しておけば、現在の若手が高齢化する将来も、次に若手が地域の農地を守り、持続的な営農システムができることになる。二宮金次郎先生の生誕の地として、「金次郎米」の創造と、尊徳思想を具現化するような邑づくりに、私も積極的に参加していきたい。そして「人・農地プラン」を積極的に活用し、この取組の事業化に向け支援していきたいと考える。