第224回 | 2015.02.09

効果的な特産品の開発手法を考える ~「富のおもちえり」商品発表会より~

去る2月2日(月)、富山県の高志会館カルチャーホールにおいて、「富のおもちかえり」商品発表会が開催され、私は「とやま農林水産品ブラッシュアップ検討委員会」の委員として参加した。この事業は、北陸新幹線が3月14日(土)に開通することを踏まえ、富山県の特産品を掘り起こし、味覚・パッケージなどに磨きをかけ、統一ブランドで売り出すことで、地域の産業振興と活性化の起爆剤にしていこうというものである。

発表会には、この事業の関係者やマスコミ関係者など約100名が参加した。フラッシュのシャワーの中、石井知事のあいさつを皮切りに、ユニバーサルデザイン総合研究所所長の赤池委員長の総評や開発に携わった事業者による商品説明、商品の試食会、さらには流通事業者へのインタビューなどが続き、大盛況のうちに終了した。

とやま農林水産物ブラッシュアップ検討委員会は、平成25年11月に発足し、正規の会議だけで4回開催され、多様な部会活動を通して今日の商品化に至った。当初41品目の応募があった中から、絞込みとブラッシュアップを重ね、最終的には11品目でスタートする運びになった。この度の発表会を契機に、今後は「富のおもちかえり」ブランド商品のラインアップを年々増やしていく方針である。

さて、この度完成した11品目の商品概要を紹介してみたい。商品は、「押し寿司」、「ます寿司」、「オイル漬け」、「ピクルス」、「かまぼこ」の5部門に区分でき、部門ごとにパッケージデザインを統一している点が特徴である。パッケージデザインは、全国トップクラスのデザイン力を持つと言われる富山県において、若手の女性デザイナー5名が手掛けたもので、いずれも厳選された高度なものである。

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「押し寿司」部門では、「炙り鱒と寒ハギのあわせ寿し」、「富山牛のおぼろ寿し」、「おぼろ昆布のます寿し」の3品が商品化された。いずれも食材のよさを引き出すための試食試験を繰り返し、完成度の高い商品へとブラッシュアップされた。個人的には「寒ハギの押し寿し」が特に一押しである。駅弁として、土産品として購入してもらえるような容量、形状、パッケージ及び価格帯とし、子どもから高齢者まで間口の広がるような味覚に仕上げた点が特徴である。

「ます寿し」部門は、「はんぶんこ」というネーミングで、従来のます寿しを、1人用サイズのパッケージに統一して、ラインナップ化したものである。ます寿司生産組合に所属する10社が参加し、同じパッケージのものが10種類あり、食べ比べてもらうことをコンセプトにしている。ご存知のように、従来のます寿しは、円形の木と竹で出来た容器に入っており、概ね2人用の土産品であったが、1人用の駅弁にならないかというテーマは以前からあった。試行錯誤の末、現在の製造工程を大幅に変えずに効率的に製造できる半円形という形状が浮上し、紙素材でおしゃれな手提げタイプのパッケージデザインに仕上げた点は圧巻である。

「オイル漬け」部門は、「白えびのスペイン風」、「ホタルイカのイタリアン風」、「ブリのハーブ風味」、「寒ハギの昆布風味」の4品瓶詰めがランナップ化された。富山県=和食というイメージが強い中で、富山県の食材のポテンシャルをアピールしようと取り組んだ力作である。商品開発にあたっては、オークスカナルパークホテル富山の渡辺総料理長が、指導・監修にあたった。プロの味のお持ち帰りというコンセプトであり、いずれも最高の出来栄えで、酒のつまみによし、またパスタやパンと併せて食すもよしという絶品である。

ピクルス部門は、「大山の里の和風ピクルス」、「音川の里の和風ピクルス」、「八尾の里の和風ピクルス」の3品が、半透明の統一パッケージでラインナップされた。地場で採れた農産物を使ったふるさとの伝統的な漬物を、改良を重ねて商品化したものだ。いずれも地域の女性グループが主体になって製造しているものであるが、漬物ではなく「和風ピクルス」と命名し、味覚を調整し、洗練されたパッケージデザインで仕上げたものだ。

「かまぼこ部門」は、「とら河豚蒲鉾」、「おぼろ昆布蒲鉾」の2品が商品化された。「おぼろ昆布蒲鉾」については、各委員とも当初から完成度が高い商品として評価していたが、「とら河豚蒲鉾」については、検討当初の評価は低かった。「ふぐの皮を練りこむ」という製造方法により、食感は良くても臭みが残るなどの課題があり、製造者の大変な努力により商品化に至った経緯がある。

これまでも、全国で地域特産品の開発事業が行われてきたが、この度の富山県の手法はとても参考になると思う。2年間の委員としての活動を通して、富山県の手法を踏まえた特産品開発のポイントについて、私が思うところを述べてみたい。

先ずは、ターゲットと販路の設定が、入り口論でのポイントとなる。富山県では、北陸新幹線開通により、東京から2時間という観光地に生まれ変わることになる。加えてビジネスマンの訪問も増えることが予想されることから、車内でも食べられ、手軽な土産としても持ち帰ることができる商品というコンセプトを定めた。このコンセプトとに基づき、購入シーンや食べるシーンを想定し、容量やパッケージなどを厳選した。

次に食材と味覚である。「富のおもちかえり」の商品は、どの商品も非常にうまい。検討委員会で何度も試食を重ね、多くの辛口の批評を事業者が真摯に受け止め、改良を重ねてきた経緯がある。地域の食材を使って地域の伝統の味を商品化することは、商品開発にとって重要な視点ではあるが、ややもすると自己満足に終わってしまい、結果として売れない商品になってしまう。伝統的な製造方法や技術は活かしつつ、多くの消費者に「うまい」と言ってもらえるよう妥協のない改善努力を重ねることが、ヒット商品を生み出す秘訣であろう。

3点目は、パッケージとそのデザインである。検討委員会では、県内トップレベルのデザイナーが試作したものに対し、何度も注文をつけた。単なるデザイン性ではなく、実用性や売場での訴求性、ストーリー性など、注文内容は多岐に渡った。こうした意見を踏まえ、見事に完成させたデザイナー達に改めて敬意を表したい。商品開発においては、デザインは極めて重要なファクターであることは言うまでもない。

そして4点目は、事業の推進体制である。この度の事業は、石井県知事の肝いりでスタートしたことから、所管の農林水産部農産食品課の取組姿勢にも力が入り、優秀な職員達がその能力を存分に発揮した。加えて、プロ集団としての検討委員会を組織し、戦略的思想と実践論を兼ね備えた検討を行った。また、渡辺総料理長や県内の若手トップデザイナーなどの専門家を推進スタッフとして迎えたことで、思いをかたちに出来た。さらに、一連の事業を総合的にコーディネートした(株)ラックスの功績は計り知れない。

相応の予算のもと、官民合わせ最高のスタッフ体制で臨んだ事業であるゆえに、ここまでの成果を上げたのだろうと思う人は多いであろう。確かにそれは事実である。しかし、富山県の特産品開発の取組には、参考とすべきポイントが満載である。全国の特産品開発に携わる関係者は、これらのポイントを踏まえ、予算に応じ、地域の特性に応じて、効果的な手法を組み立てて頂きたい。