第184回 | 2014.04.14

新規就農の課題と展望 ~頑張れ!新規就農者~

農家の高齢化・担い手不足が進む一方で、土地や資金を独自に調達し、新たに農業経営を開始した「新規参入者」は概ね増加傾向にあり、特に、国の青年就農給付金が創設された2012年調査では約3,000人で、前年と比べて4割強の大幅な増加になった。今回は、全国農業会議所が実施している「新規就農者の就農実態に関する調査結果」から、いくつかの興味深いデータを抜粋し、新規就農の課題と展望について述べてみたい。

先ずは、就農した理由について2010年と2012年の結果を考察してみたい。この調査結果で最も目を引くのは、2010年と比較し「自ら経営の采配を振れるから」、「農業はやり方次第ではもうかるから」と言った経営面での理由が増加している点だ。逆に「農村の生活(田舎暮らし)が好きだから」、「有機農業をやりたかったから」などの回答割合は減少しており、いわゆる農業へのあこがれから、農業をビジネスとして捉えた動機に転換しつつある点は非常に好ましい傾向と言えよう。

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出典:以下、全国農業会議所「新規就農者の就農実態に関する調査結果」n=711

しかし、実際の所得はどうであろうか。2012年の就農後の販売額を見ると、就農1・2年目では、販売額300万円未満が全体の69%を占め、就農5年目以上でも28%を占める。作物によって大きく異なるものの、仮に所得率が30%であるとすると、就農当初は年間所得が100万円未満の就農者が大半と言う結果だ。これではとても生活は出来ないし、家族を養うことは出来ない。一方で、就農後間もなく1,000万円以上の販売額をあげている就農者もいる。この差には様々な要因があろうが、私が新規就農者達の実態を見て実感するのは、「経営マインド」の違いが最大の要因になっていると考える。
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新規就農することは、起業して経営者になることを意味する。新規のビジネスを起こすにあたっては、土地・機械・施設とそれを調達するための資金などハード面の経営資源、技術・人脈・販路などのソフト面での経営資源を持つ必要がある。その経営資源を活用して、最適な手法を選択、あるいは発見し、効率的に成果をあげていくことが肝要である。最初は脆弱な経営資源を、時には思い切った投資により強固なものにし、投資効率を高めていく。

このように一般論は言えるが、経営の現場は非常に難解で思わぬアクシデントも多い。休みたいなどもっての他で、昼も夜も寝ている時でも経営のことを考え続け、厳しい現場でその都度適切な判断と、時には思いきった英断を下して、体力・気力の限界を超えた行動をし続けることが経営というものであろう。これが出来ない限り、起業は成功しないし経営者にもなれない。こうした気構えを持てず、腹がくくれないのであれば、新規就農はやめた方がよい。

では、経営面での課題・問題点を新規就農者はどうとらえているか。2010年と2012年を比較しても大きな変化は見られず、「所得が少ない」、「技術の未熟さ」、「設備投資資金の不足」などが上位を占めている。青年就農給付金をもらっている間に、どれだけ技術を習得できるか、より安価で効率的な設備投資ができるかがポイントであろう。そのためには、より多くの人脈や情報を得ていくことが重要である。

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失敗している新規就農者の多くは、話し相手が少なく、少ない情報の中で、自分ひとりで考え、自分勝手な理論で行動している。もっと分かりやすく言うと、失敗する人は「人の話を聞かない人」だと言える。反対に、成功している人は、実によく人の話を聞く。その典型が、理念先行で、最初から有機農法に取り組む就農者である。非常に高度な技術を要する有機農法に最初から取り組んでも必ず失敗する。慣行栽培のノウハウが蓄積出来てはじめて有機農法に取り組む資格がある。これは農業の常識で、普及員の方も、周辺の農家の方も言っていると思うが、聞く耳を持たない以上失敗して退散してもらうしかない。

また、最初から価格・品質面で最高級のものを目指そうとする人も失敗する。見よう見まねでやっても、技術不足の中で、最初からそんなものが出来るはずはないし、仮に出来ても収量が少なくコストばかりがかかり、所得に結びつかない。調査結果を見ると、「販売が思うようにならない」と回答した割合は、2010年より減少している。これは、販路がある程度、存在することを意味する。そうであれば、その販路で確実な利益を得るための生産・出荷体系を考えた方が現実的である。販売額は「価格×数量」、所得は「価格×数量×所得率」で計算できる。比較的価格は安くても、より多く、より安価なコストで供給することが所得向上につながる。

私から新規就農者への提案は、大まかに言えば以下の4点である。①経営者になると言う覚悟を持つこと、②より多くの仲間や人脈をつくり人の話をよく聞くこと、③己の未熟さを知り、身の丈にあった取り組みをすること、そして④中長期のビジョンを描きつつ、年度ごとの成長計画に落とし込むことだ。頑張れ!新規就農者。先ずはこの4点を実践することから始めれば、必ずや希望に満ちた道は拓ける。