第235回 | 2015.04.27

新たな経営戦略を模索する卸売市場 ~ 長野連合と長印の経営統合が意味するもの ~

先般、長野県の青果物卸売会社である長野県連合青果と長印が、経営統合に向けた協議を始めた旨を発表し、卸売業界に激震が走った。経営統合が実現すれば、地方卸売市場では東京多摩青果を抜いて最大規模となり、中央卸売市場を含めても東京青果に次ぐ事業規模の卸売会社が出現することになる。

2つの会社は長野県の両雄として、長年熾烈なライバル関係にあっただけに、この度の経営統合に仰天した関係者も多いことだろう。一昨年、個人的に長野連合の堀社長とお会いする機会があり、多様な意見交換をさせて頂いたが、その時は全くこのような話は出来なかった。卸売市場を取り巻く環境変化が加速する中で、短期間で一気に話が進み、トップ同士が英断したものと考えられる。

先ずは公表された資料から、両社の経営統合の基本方針についておさらいしておきたい。
(1) 主要な青果物卸売事業は、従来どおり長野連合と長印の2社体制
を維持する。
(2) 地方のハブ市場機能を確立して、入荷が不安定な農産物を全国
から安定的に集荷する。
(3) 販売力を強化して、長野県産青果物の集荷を拡大する。
(4) 加工業務などの経営多角化をさらに進める。
(5) 両社の強みを発揮して物流機能などの合理化・効率化を進める。

このような基本方針のもと、平成27年10月を目途に、株式移転による共同持株会社を設立することになる。また、これに先立ち、長印のグループ子会社の経営管理を担っていた(株)長印ホールディングスは、この5月に(株)長印を吸収合併する。長野連合の関連会社には、物流を担うレンゴー運輸と加工・流通を担う長野県青果流通センターに加え、都内板橋中央卸売市場で卸売を行う富士青果がある。一方長印は、物流・加工・流通関連の子会社に加え、千葉県の地方卸売市場に進出した長印市川青果、長印船橋青果などを傘下に持つ。

全国の地方卸売市場は、集荷力の低下が喫緊の課題になっている。これは、消費構造・流通構造の変化に伴い、市場外流通が拡大し市場経由の流通量が減少したこと、産地がより有利な販売をめざし地方ではなく中央卸売市場に直接持ち込むようになったことなどが背景にある。こうした背景のもと、卸売市場は現在、流通量が縮小する中で、地方・中央の区分なく、激しい集荷競争が繰り広げられている。

産地は、より高い価格をつけてくれる市場、より多くの数量を取り扱ってくれる市場、A品だけでなくB品・C品も相応の条件を提示してくれる市場を選別しようとしている。産地に選択してもらう卸売市場になるためには、販売力を高める必要がある。販売力を高めるためには、取扱量を増やすことはもとより、販売先のニーズに合わせた物流・加工・流通機能を充実させる必要がある。両社の経営統合は、こうした取組課題に対応するものであると言える。

この度の経営統合は、地方・中央という従来の市場区分に風穴を開けることになろう。以前は、中央卸売市場の卸売会社が取扱量の全国の上位ランキングを占めてあたり前であったが、この度の経営統合により、地方卸売市場の卸売会社として、不動の2位の地位を占めてきた築地の東京シティ青果をはるかに上回ることになる。中央卸売市場の看板を掲げているからこそ、産地の信頼が得られると考えてきた関係者も多いが、これからは金看板も銀看板もなくなるだろう。

現在農林水産省では、第10次卸売市場整備基本方針をとりまとめているが、全国一律だった市場から、機能分化・特化した市場へ転換すべきという基本的な考え方が示されている。大量生産・大量消費の時代はとっくに終わり、従来型の卸売市場の仕組みはすでに時代に合わなくなっている。古くからの規制にがんじがらめに縛られた中央卸売市場もまた、時代に取り残された存在になっていくであろう。私は、中央卸売市場という制度時代がなくなる日は近いと考えている。

では、両社の経営統合によって、具体的には何が起こるであろうか。以下はあくまで私の推測である。

1つ目は、長野連合・長印グループの首都圏への本格的な進出である。東京青果に匹敵するほどの集荷力を武器に、経営が弱体化しつつある企業を傘下に収めることに加え、崩壊の危機にあるような市場の運営にも着手するのではないかと考える。また、市場運営だけでなく、両社が持っている加工・物流機能を再編・強化し、集荷から販売までを一元的に担う新たな卸売業態企業となることで、流通網を拡大させていくものと考える。地方卸売市場は、卸売業者の第三者販売の制限撤廃など、中央卸売市場よりはるかに規制が緩い。地方卸売市場の運営を担う両者ゆえに、より柔軟で時代性に即した戦術で首都圏への進出を進めていくものと考える。

2つ目は、新たな業界再編であろう。特に上位のランキングにある卸売会社は、新たな巨人出現の中で、その対抗措置として、経営統合や吸収合併などを考えざるをえない。そしてその組合せは、長野連合・長印同様、業界関係者の常識を超えるものになるかもしれない。かつて隆盛を誇ってきた大手卸売会社も、現在はそれほど経営環境が厳しさを増しており、今後は統合か倒産かという選択肢を迫られる時代が来るだろう。

当面両社の動き、そしてこれに対応する業界の動きから目が離せない。中央卸売市場も地方卸売市場も、これまでと同様のビジネスモデルでは存続できない時代に突入した。長野連合と長印の経営統合が意味するもの。それは卸売業界の新たな時代の幕開けを告げる春の嵐のようなものかもしれない。