第289回 | 2016.07.11

原発被災地の農業再生に向けた道筋
〜EM災害復興支援プロジェクトより〜

私は、20歳代の半ばに、若気の至りで、青年海外協力隊として中米のホンジュラスで活動していたことがある。その国のために何かを成したかと問われれば回答に窮するが、協力隊としての経験が、その後の私の人生にとって、大きな財産となったことは間違いない。あの頃芽生えた熱い思いがかたちを変えて、今の生き方や仕事のスタイルを作ってきたと言える。協力隊時代に得た大きな財産の一つに、ホンジュラスで共に活動した同期達があげられる。同期の11人はとても仲が良く、現地でも頻繁に集まり、よく遊び、よく飲み、よく語ったものだ。

その当時の同期の二人は現在、株式会社EM研究機構に勤務している。二人とも非常に正義感が強く、情熱的で、かつ頭脳も優秀である。あれから約30年が経ち、道は違っても、私たちの、農業を核に豊かな社会をつくりたいという思いは同じである。そのうちの一人は、震災直後から5年間、震災復興プロジェクトのリーダーとして福島で活動していた。協力隊退会後は、病虫害の専門家としてコスタリカの大学で研究を重ね、博士号まで取得している研究者である。

EM菌とは、自然界から採取・抽出し、培養した微生物を意味し、自然農法や土壌改良、汚染浄化などに効果的であるとされており、かれこれ30年前に琉球大学の比嘉照夫先生が提唱し、その後国内はもとより、世界各地で活用が進み利用者は拡大している。しかし、学術的な根拠が若干乏しく「EM教である」などと揶揄する人も多い。その一方で、様々な分野で確かな成果をあげていることも事実である。

EM震災復興プロジェクトは、EMを活用して、放射能汚染問題を解決することを目的としたもので、福島県内を中心に実施され、地域の生産者などと連携して実証的な調査・研究を進められてきた。水稲、酪農、果樹、野菜の生産者に加え、生活改善グループや環境保全団体など40団体以上がモデル事業に参加し、地域の復興と営農の再生に向けて、その可能性を模索し続けてきた。

以下に、先に開催されたフォーラムの資料から、本プロジェクトの調査・研究成果を整理する。

①有機物を投与しEMが十分に活動できる条件を整えて、EMの密度を高めるような栽培管理を行った
農地では、作物による放射能セシウムの吸収は完全に抑制される。同時に作物の収量や品質が向上した。

②EMを活用した酪農では、畜舎の衛生問題をすべて解決するとともに、その地域の汚染牧草を給付しても、
乳牛中の放射能セシウムは5ベクトル以下となり(国の基準は50ベク トル)、その糞尿を散布した牧草地
の放射能レベルが低下し、牧草の放射能セシウムの吸収も抑制されることが認められた。

③EMの活性化液を散布し続けた場合は、例外なく放射能汚染レベルが低下しているが、降雨等で土壌水分
の多い条件下で投与すると、より効果的である。

④EMやEM・X GOLDを活用すると、電離放射線の被曝障害を完全に防ぐことが可能であり、
内部被曝対策にも万全を期することが可能である。

⑤EМは、今後問題化すると予想される放射能ストロンチウムの作物への吸収抑制にも顕著な
効果がある。

⑥EМを散布したあたりの数メートルから数十メートルの放射線量も低下する。

先日、別件で福島第2原発周辺の市町村の現地視察を行った。未だに帰町が出来ない町もあり、除染は済んでも営農は再開されている地域は少ない。かつて豊かな水田であった農地に、青田の風景はなく、ハウスの中は雑草で荒れ果てていた。「原発事件さえ起こらなければ」そんな呟きと地域の人々の無念さが、耕作放棄地から湧き出ているように感じた。

ある町では、汚染された農地の表土を全て剥ぎ取り廃棄して、新しく山砂を入れている。それ以外、除染の有効な方法がないようだ。しかし、瓦礫混じりの山砂を入れた農地は、何度も深耕しないと水田には戻らないし、地力も乏しい。こうした農地を再生するためには、大量の堆肥を投入したり、緑肥系の作物を作付して、何年かかけて根気よく土壌改良に取り組む必要がある。

EМ震災復興プロジェクトのモデル事業では、土壌分析をした上で、ほ場ごとの特性や栽培予定品目を見極め、EМ菌を入れた堆肥を適切に投下することで、農地の早期再生を実現した事例などが紹介されている。国や県がこうした取組を支援するかどうか疑問であるが、変わり果てた農地を目の前に途方にくれている農家に対し、有効な手立てを提示できない以上、現場の市町村は、EМプロジェクトにチャレンジしてもよいのではないかと考える。

国や県でも、被災地の農業再生に向けたモデル事業に取り組んでおり、その取組内容や成果はホームページに記載されている。しかしその取組内容は、人工光閉鎖型水耕栽培システム、広域無線による遠隔環境生後システム、エネルギー用作物の産地化などであり、一度崩壊した農業を、全く違った視点でゼロからやり直すような事業が多い。これらの研究自体もそれなりの意義があると思うが、帰町して農業を再開したいと願う人々は、植物工場をやりたいのではなく、昔のように米づくりがしたいのだと思う。ゼロから何かを始めるのではなく、震災前の美しい水田を取り戻したいのだと思う。

震災前の農地に復元する。昔の生活を取り戻す。そうした目的達成に向けて、EM震災復興プロジェクトは、地域に密着し地に足が付いた取組を続けて来たと、私は評価する。原発被災地を真の再生を実現するためには、10年、20年、下手をすると50年、100年といった長い時間を要するであろう。そのような状況の中で、地域農業を何とか再生したいと心から願い、昼夜を問わず地道な活動を続けて来た私の親友に、改めて拍手を送りたいと思う。