第36回 | 2020.05.15

厄介者による地域活性化
~キャベツを食べて海を救う本当の話~

私が海や魚に興味を持ち、この世界で生きていきたい!と考えるようになったのは、中学生の頃に、旅行先の石垣島で体験ダイビングをしたことがきっかけでした。

海に潜る楽しさは人それぞれですが、私が楽しいと感じるのは、やはり美味しい、かつ珍しい魚(主にクエなどハタ系)を見つけた時と、きれいな海で無重力を感じながらぽげ~っとしている時です。

 

大学に進学して以来、素潜りやダイビングを趣味としていて、それなりに日本各地の海、特に離島を潜ってきました。

これまでの経験で最も素晴らしい海だと感じたのは沖縄の美ら海水族館お向かい、城山(たっちゅー)と呼ばれるトンガリ山が目印の伊江島の海がダントツです。ここの海は、一時海水温上昇の影響で白化(死滅)したサンゴ礁が、とてつもない勢いで復活してきており、海に潜っているとその生命力を感じます。余談ですが、この2枚目もサンゴです。ミズタマサンゴっていいます。かわいいですよね。

ただし、復活を遂げてきている伊江島のサンゴ礁も新たな危機に直面していて、オニヒトデの食害による被害を受けています。地元の漁協やダイビング協会が協力し、オニヒトデの駆除に取り組んでいるようですが、一つ一つ人力で回収と大変な作業のようです。

 

海洋生物の食害による影響として、近年磯焼けによる海洋環境悪化も問題視されています。磯焼けとは、海中、特に浅海域で藻場が減少・消失してしまうことで、藻場が減少することにより魚の生活の場や産卵場がなくなってしまう、あるいは光合成による二酸化炭素の吸収力が落ち地球温暖化を助長するともいわれています。

この原因の一因となっているのが、藻類を主食とするウニやガンガゼといった棘皮動物やアイゴやクロダイなどの魚類による食害なのです。

 

オニヒトデ同様、これらは駆除する手は一つ、捕獲するしかありません。そこで、長崎県新上五島町の若松中央地区漁業集落では、駆除のため捕獲したガンガゼを有効活用できないかと、食用、さらには加工品の開発に乗り出しています。捕獲は漁の閑散期に行い、餌にはキャベツとブロッコリーを与え養殖して育て、苦みを抑え甘みが増すようになったとのこと。

ガンガゼを食用として扱っている例はこれまで見聞きしたことが無く、町の特産品となれば地域活性化にも繋がり、かつ閑散期の貴重な収入源にもなるので、加工品の完成を期待したいですね。

その他、磯焼けの天敵としてウニやアイゴ、クロダイを紹介しましたが、アイゴは沖縄料理「スクガラス」(稚魚の塩辛)等、クロダイは鮮魚として一般的に流通しているため、磯焼け対策で捕獲して消費することに違和感はないかと思います。

ウニなんていわずもがな…かと思いきや、食用として広く流通しているのはバウンウニやエゾバウンウニ、アカウニ等で、食用にはあまり適していないムラサキウニによる食害事例が多数報告されています。特に神奈川県の三浦半島や小田原等での被害が深刻のようで、漁業者の悩みの種になっています。

 

そこで、小田原市漁業協同組合青年部では、県水産技術センター指導の下、ムラサキウニを捕獲してきて陸上養殖する取組を始めています。こちらは餌に、スーパーで廃棄されるキャベツの葉や地元産ミカンの皮を利用しているということで、資源循環の意味でも、とても価値のある取組みになっています。

これらの餌は本来の主食である海藻と異なり、磯臭さの原因となる成分を持っていないため、甘くて苦味がなく、さらに臭みのないフルーツのようなウニに仕上がっているそうです。

みかんタイやチョコブリなど、世間では近頃様々な餌を食べている水産物が登場してきていますが、ブランディングの観点からもこのような取組みは申し分ないですね。

山口県ではミニトマトやアスパラガスが産品ということで、それらを使ってウニを育て始めたりもしているそうです。

 

未利用魚・低利用魚の活用というのが近年注目されていて、それがさらに漁業者や地球環境にとってワルモノであれば、なおのこと効果的な取組みだと思います。消費者までこのような情報を届けることで、「ならこの取組みを応援しよう」というエシカル消費にも繋がります。いわゆるコト消費の一種だと考えていますが、日本人は“物語にお金を払う”文化があり、このような取組みには付加価値が高くつけられると感じています。

 

皆さんの周りにも、厄介者いませんか?それらをじっと観察して、生態を調べてみて、発想を転換してみると、意外と使えるのかもしれませんね。


副主任研究員 片瀬冬樹