第270回 | 2016.02.01

特産品開発はこの人に任せろ!
~Ⅿ&Ⅾ研究所濱田先生講演会より~

地域資源を活用した6次産業化や農商工連携による特産品開発は、全国の地域にとって永遠のテーマであろう。こうした背景を受け、コンサルタント業界でも、あまたの専門家が存在するが(私もその一人であるが)、そのレベルは様々である。その中で本日は、特産品開発の専門家として、私がピカイチの人と考えている、(有)Ⅿ&Ⅾ研究所の濱田晴子先生を紹介してみたい。

濱田先生はマーケティングの視点から、メーカーの新規事業開発や商品開発、地域ブランドづくりなどの実務型コンサルティングを行ってきた。特に、千葉県「道の駅とみうら」では、規格外品の「房州琵琶」を活用した商品開発に取り組み、50アイテム以上の商品化を実現することで、地域の活性化に大きく貢献したことでも有名である。

濱田先生と私は10年来の旧知の仲であり、毎年のように一緒に仕事をさせて頂いている。地域資源の本質を見抜く洞察力、特産品開発に係る知見、これまでの実績は抜群である反面、いくつになれてもおちゃめで人なつっこく、根っからのお人よしであることから(濱田先生は私のことを、輪をかけてお人よしだという)、とても人望が厚い。それゆえ、先生の事務所には全国からひっきりなしに人が集まり、その人材のネットワークの広さにはいつも驚かされる。

さて、この度は、岐阜県大野町の道の駅の開設に向けた支援業務の一環として、濱田先の講演会「売れる加工品開発」を拝聴させて頂いた。以下は、この度の講演内容を通して、濱田先生の特産品開発に係る視点や手法などを紹介する。

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地域特品開発の基本は、「ヒット商品よりロングセラー商品を狙う」、「想定販路からのものづくりが最も近道」、「積極的にコラボレーションする」ことにあるという。また、特産品開発では、素材力が最も重要であると力説された。素材を選択する場合、その素材の強みやウリは何か、地域特性や食文化、伝統や技術などの背景が表現できるか、時代・消費者ニーズに合っているかなどを検証する必要がある。

素材が決定したら、地域にとっての必然性・愛着・物語を踏まえて商品コンセプトを定め、どこで誰に売るのかを見定め、トータルに発信することがポイントである。素材のチェックポイントは、健康・安心・安全の需要条件に応えているか、市場優位性はあるか、地域連携・ネットワークがつくれるか、商品化にテーマ(ストーリー)が創れるか、流通への対応力があるかの5点である。これを全て兼ね備えてはじめてブランドが創造できると話された。

講演会では、「琵琶倶楽部」の事例も紹介された。当時の千葉県富浦町は、びわの一大産地であったが、農家の高齢化が進む一方で、規格外品のびわが大量に処分(廃棄)されていた。処分するびわをお金にしたいという地域要望に応えるかたちで、「びわ」に的を絞った特産品開発に取り組んだ。素材の強みとして、他の産地の追随を許さない圧倒的なブランド力があったことが決めてとなった。

町100%出資の第3セクターが、農家から規格外品のびわを買い取り、通年活用を目的に、1次加工(半割り、スライス、ピューレ)を行い、東京電力が開発した貯蔵庫に低温貯蔵した。とてもデリケートなので、1次加工は、選果、皮むき、種取りに至るまで全て手作業である。貯蔵庫は、鮮度を最大限保てるよう、湿度90%、温度5度の安定した貯蔵環境を保てるようなシステムを導入した。

そして第1ステップとして、これらの一次加工原料を活用した特産品開発に取り組み、ソフトクリーム、シロップ漬け、ジャム、ゼリーなど、その後ロングセラーとなるアイテムづくりに成功した。第2ステップでは、素材であるびわを活用した様々な商品開発に着手した。食品と雑貨に区分し、さらに細かいカテゴリーごとに開発可能な商品を洗い出し、製造試験を重ねながら商品化を進めた。この際、全てを自社製品するのではなく、製造方法が難しい商品、販売見込みが不安定な商品などは製造委託方式とした。製造委託先は、確かな技術を持ち、安全性が担保できる大手企業とした。

加工品は、生果より10倍、20倍の利益があがるが、地域ブランドとして売り出すからには、安い価格設定をしてはだめだと強調された。また、販路はあらかじめ決定しておく必要があると言われた。販路によってターゲットによって、求められる商品の内容、荷姿、価格帯まで異なる。「琵琶倶楽部」の場合、先ずは道の駅での販売から着手し、小売、ショップ、カフェ、テイクアウトの3つの販売方法を確立した。次に、宅配・ネットショッピングに取り組んだ。リピーターにつなげていくために、3セクの社員が自ら丁寧に詰め合わせ、メッセージを添えて発送する方法をとった。そして現在は、市内小売店やホテル売店、県内SA、イベントなどへの卸売まで販路を広げている。

最後に、地域オリジナル商品開発での以下のとおり取組課題を整理された。
①安定生産、供給が続けられるか(原料価格の安定を含む)
②素材特性(味、糖度、成分、食感、機能性等)のウリは何か
③商品の育成ステップが描けるか(定番、テスト、育成、ロングセラーへと展開する)
④あらかじめ販路が想定できるか(事業規模を含めて想定する)
⑤常に第三者の視点(消費者視点)に立って開発できるか(独りよがりの判断はしない)
⑥人材、技術のネットワークが出来るか(製造委託先、地域人材などとの連携を強化する)
⑦商品のスクラップ&ビルドを続けられるか(常に見直し新しいものにチャレンジする)
そして、これらの課題を克服するところに真の地域ブランドが生まれると話された。

その中で、原価計算と販売計画の大切さを強調されていたことが印象的だ。いくら売れるか、そのための製造原価は50%未満に抑えられているか(50%を超えると卸売出来ない)。新たな商品を創り出すための初期投資(試験研究費、デザイン費、販促費など)はいくら必要か。原価と初期投資、それに対する売上予測などが計算できない事業は着地しない。また、ラインナップ化する場合、利益を出す商品をいかにつくるかが重要だという。1から2割が利益商材で、その他の商品は収支トントンでもよい。道の駅は最適な実証販売の場であり、売れ行きを確認しながら修正を加え、商品化に結びつけるべきであると話された。

濱田先生は、単なる特産品開発の専門家というだけの存在ではない。地域づくりの本質を理解し、地域の特性を踏まえた最適な特産品開発手法を提案される。また、ものづくりだけでなく、人づくりについてもプロである。先生の人間性と情熱に魅了され、モチベーションが飛躍的にあがり、地域のリーダーが生まれ、特産品開発のための組織が出来る。このようなコンサルは、全国広しと言えどもまずいない。特産品開発はこの人に任せろ。私が心から地域にお勧めする逸材である。