第275回 | 2016.03.07

地域活性化の主役たち
~ 地域人材の発掘・育成手法 ~

前回のコラムで紹介した染谷氏も言っていたが、地域活性化には「若者、よそ者、そしてばか者」が必要である。また、地域活性化を成し遂げたある人は、「一人の気違いと、この者についていく二人のばか者が存在すれば、何でもできる」と言われていた。ばか者や気違いという言葉は道徳的には不適切であろうが、地域活性化を担う人物像を表現する上で非常にわかりやすい言葉でもある。

人は誰でも自分がかわいい。自分や家族の生活を最優先にしたいし、お金も暇も欲しい。世のため人のため、私心を捨てて、金にもならないことに寝食を忘れて行動するような人は、世間に言わせると、ばか者であり、気違いということになる。しかし、活性化を実現している地域には、必ずこのような人たちが存在し、地域を変え、前進させる原動力となっている。裏を返せば、このような人たちが存在しない地域では、地域住民主導の活性化は困難であると言える。

今年は、いくつかの地域で、道の駅の管理・運営体制の構築に向けた支援業務に携わっている。現在全国的に、道の駅の管理・運営は指定管理者制度を導入して、大手の民間企業を管理者として選定する傾向が高まっている。こうした中で、ある市では、地域の団体・住民が自ら組織をつくり、指定管理者となって道の駅を運営していく方針が決まりつつある。地域をけん引するリーダーたちの強い信念と情熱が、市の上層部の理解を引き出し、地域主体で道の駅を管理・運営するという方針に導いた。

この事例では、指定管理者となる一般社団法人を地域の力で立ち上げ、農産物の出荷者を組織化し、特産品の開発研究会を設置していこうとしている。いずれも経営は素人であるし、今後の課題は数えきれないほど存在する。失敗したらどうなるのかといった不安もぬぐいきれないだろう。それでも、地域主体でやっていこうという合意に至った決め手はどこにあったのか。

決め手の一つ目は、検討会の人選にある。検討会は、地域の町内会長や商工会長、まちづくり団体代表、JA担当者、農事組合法人代表、農家代表、女性代表などによって構成されたが、検討会の誰もが地域活性化に向けた熱い思いを持っていた。そして検討会の会長をはじめ、誰もが、ものを言うだけでなく、それぞれの立場で地域の人々に働きかける行動力を持っていた。こうした人選が、地域全体の円滑な合意形成を促した。

全国地域で同様の検討会が多く開催されているが、検討が思うように進まなかったり、思わぬ方向に迷走してしまう事例が多い。その原因の多くは人選にあると言える。地域でのバランスを考慮するあまり、地域の有力者などを委員に選定して、この者の意向で他の委員の発言が抑えつけられてしまう例や、口だけ達者な有識者や当事者ではない消費者代表などを選定して、絵空ごとの方針しか打ち出せないような事例が多い。こうした事態を避けるためには、これと見込んだ地域のリーダーを一人選び、このリーダーと事前に調整して委員会の委員を人選するという裏技が必要である。こうした手段は、公平原則に背くと考える行政マンも多いだろうが、下手な人選をして、地域を混乱させる方がむしろ行政側の罪にあたると考える。

決め手の二つ目は、検討会での論点の絞り込みと検討スケジュールの明確化である。期間内に何回の検討会を行い、いつまでに、どんな結論を出さなければならないのか、その工程を検討委員に示して腹に落としてもらうことが重要である。先の事例では、「地域主導の組織が出来なければ、指定管理者は全国公募する」ことを、最初の検討会で市が明言した。これによって、地域主体の組織設立の可能性と条件、設立手法などを論点にして、それ以降の検討が進んだ。こうした論点を地域に提示するにあたっては、十分な庁内調整が必要であり、行政マンの高い手腕が問われることになる。

決め手の三つ目は、地域に活性化に必要な「よそ者」としてコンサルタントの選定である。コンサルタントによって、地域がまとまるかどうかが決まることも多い。地域活性化を請け負うコンサルタントは、知識や実績なども大切だが、検討員会から信頼され、人の心を動かすことができるような人間力が求められる。手前味噌で恐縮であるが、私は自治会役員もPTA会長も祭りの実行委員も努めると共に、農業生産法人の役員でもあり、地域というものを熟知しており、自ら地域活性化に取り組んでいる。したがって、全国どこに行っても、地域の人々と同じ目線で話し合うことが出来ると自負している。現実に目を背けることなく、一方では夢を共有しながら、実現可能な手法を地域と共に導き出していくようなよそ者が必要といえよう。

地域には、活性化の担い手となる人材が必ず埋もれている。これを発掘・育成するのは、行政マンの仕事といえよう。行政マンは地域のキーマンのめどはついても、地域に埋もれている人材まではわからない。そこで先に述べたように、キーマンに地域人材の発掘作業を委ねることが効果的である。また、人材を発掘するためには、きっかけが必要である。先の事例のように、道の駅の開業に向けた地域検討会の開催などは、最もわかりやすいきっかけである。地域検討会は、市が明確なテーマを定め、地域に宿題を投げ、その宿題に対する答えを地域で出すために、地域の住民同士で自主的に検討を進めさせることがポイントである。

発掘された人材に能力があれば、キーマンの後押しもあって、検討の場で自然に頭角を現してくるだろう。また、検討会で基本方針が決まった後には、実証的な取組やイベントの開催、実働組織の設立などに取り組むことになろうが、頭角を現してきた人材に任せ、小規模活動のリーダーに据えることで新たなリーダーとして育成する。つまり、発掘した人材に、活躍のためのステージやポジションをあたえることが人材育成のポイントとなる。

私も地域では、未だに若手と言われている。しかし、若い時より確実に腕力は衰えつつあるし、考え方自体が古くなっていることを感じる。地域だけでなく、会社においても次世代を担う人材の発掘・育成に力を入れるべき立場となったことを実感する。今後も、本日記載した手法を、自ら確実に、そして計画的に実行していきたいと思う。