第268回 | 2016.01.18

住民参加のあり方を考える
~ワークショップの進め方~

今年は、道の駅の開設業務の一環として、住民主体によるワークショップの企画・運営を行う仕事が多い。ワークショップの開催目的は、広く住民の意見を聞いて事業や政策に反映させること、住民参加型の地域運営の仕組みをつくることなど、事業内容によって異なる。行政主導ではなく、住民による住民のための地域づくりをめざす上において、ワークショップは極めて効果的な手法であると考える。

しかし、ワークショップの目的、メンバーの人選、活動内容などがマッチせず、当初狙っていた効果が発揮されなかったり、かえって住民の不信感を募らせたりするケースも多いようだ。全国の自治体で様々なワークショップが開催されているが、運営方法を間違えると、ワークショップが地域活性化の障害になってしまうような危険性もはらんでいる。

総合計画の策定などにあたっては、ワーキングを開催し、広く住民の意見を収集する方法が採用されるケースが多い。こうしたワーキングの構成員は、自治会代表、PTA代表、福祉団体代表などに加え、応募枠などを設けて目的別に広く選定すればよい。ワーキングの進め方は、コーディネーターの進行のもと、KJ法などを用いて集約するという手法が一般的である。

そこでまとめた意見は、あくまで意見であって、それをそのまま政策や事業に反映する必要はない。悪く言えば、政策や事業立案にあたり、「住民の意見を十分聞きました」といった市町村側のポーズに過ぎない側面もある。一方、ワーキングに参加する人も、好きなことを無責任に勝手に言う傾向が見られる。何を言っても自分で責任をとる必要はないし、その意見がそのまま政策などに反映される訳ではないため、発言に緊張感はない。また、様々な立場の人が集まり議論をすることから、行政批判を繰り返したり、自分がやってきたことばかり主張したりする人が多く、議論は脱線しがちである。

私はこれまでの経験から、こうしたワーキングの運営の仕事は、基本的に受けないことにしている。なぜなら、ワーキングの参加者も私も無駄な時間を過ごすだけで、成果が期待できない議論に終わるケースが多いからだ。また、無責任な発言を聞き続けることは苦痛だし、市町村側も出てきた意見を積極的に取り上げて行こうという姿勢も希薄である。こうしたワーキングに意味がないとは断定しないが、参加する住民や行政職員はもちろんのこと、私たちコンサルタントも貴重な時間と多大な労力を費やす訳であるが、努力に見合う結果を得られにくい仕事であると考えている。

総合計画などの策定にはあたっては、ワーキングではなく、検討委員会及び作業部会などを設け、これらの会議体を計画立案の主体組織と位置づけるべきであろう。事務局がしっかりした資料や計画案を示し、論点を明らかにして議論を進めることが肝要である。また、委員はそれぞれの団体のリーダーなど責任ある立場の人がメンバーになるべきで、これに議論する内容に応じて知見を持つ学識経験者を加えることが適切である。

ワーキングの持ち方で、最もやってはいけないのは、住民参加型の地域運営の仕組みづくりや実行計画を策定することが目的であるにも関わらず、事業に無関係な住民などを参加させることである。こうした目的のワーキングを開催する場合、メンバーは当事者を集めないと意味がなく、公募枠などの一般参加者を募ることは、議論を迷走させるだけでかえって逆効果を生む。メンバーには自分の発言に責任を持ってもらい、まとまった内容は自ら実行してもらうための仕掛けとしてワーキングを位置付けたい。

次に、道の駅の開設に向けたワーキングの持ち方について、私の考えを述べてみたい。道の駅は、施設全体の管理・運営を担う指定管理者と、農産物・特産品の生産・出荷や、地域との交流などを担う住民組織という2つの組織があって、はじめて地域活性化効果を発揮する。ワーキングは、後者の仕組みをつくり、開業後の実働組織として育成することを目的に開催するものであると考える。

ワーキングの立ち上げにあたっては、道の駅の開業時期を明確にし、開業までのスケジュールを逆算して整理し、何をいつまでにやるのかについて参加メンバーに共通認識を持ってもらうことから始める必要がある。ワーキングの立ち上げ時期は、開業の3年前が適切であろう。初年度は計画立案段階、2年目は実証段階、そして最終年度は開業準備段階と位置付け、年度別にワーキングで行うべき活動をブレークダウンしていく。開業時期が定まらない場合は、ワーキングを立ち上げるべきではない。なぜなら、参加メンバーに対し、これらのスケジュールを示すことが出来ず、何をいつまでにやるのかという最初の方針すら示すことが出来ないからだ。

道の駅の場合、地域農産物の生産・出荷を担う農産物直売部会、地域の農林水産資源を活用して加工品を開発・出荷する特産品開発部会、道の駅での地域イベントや利用者との交流事業を担う都市農村交流部会の3つ部会が必要になると考える。メンバーはそれぞれ、農家、商工業者、観光事業者など、すでに活動を実践しており、かつ道の駅事業に対し前向きな人、若くて意欲がある人などを選ぶべきである。また、ワーキングにおける検討内容は、所属する団体の意思決定が必要なことから、しかるべき地位にある人を選定することが望ましい。地域バランスなどを考慮するあまり、道の駅事業に否定的見解を持つ人や、事業に無関係な人をメンバーに加えるようなことをすると、ワーキング自体が迷走してしまう可能性が高い。

農産物直売部会を例にとると、初年度は視察研修会などによりメンバーの動機付けを図り、農産物の生産・出荷方法や出荷組合の設立などに関する計画案を取りまとめる。2年目は、周年出荷体制や魅力ある農産物づくり、消費者ニーズに合致した荷姿や価格設定などを検証するため、イベント販売などに取り組む。最終年度は、2年目の取組を継続する一方、農産物出荷組合を設立し(部会は解散)、開業に向けた諸準備に取り組むといった活動内容が想定される。

こうしたワーキング活動を通してはじめて、効果的で主体的な事業への住民参加が実現する。道の駅のワーキング活動は、単なる意見出しの場であったり、ボランティア活動であってはならず、参加者自身の所得向上に結びつく活動でなくてはならない。特に、指定管理者制度が導入されて以来、大手民間企業が指定管理者となるケースが多いが、こうした住民参加の仕組みがないと、民間企業へ多額な事業費を捻出して整備した公共施設を貸し付けるだけの結果に終わりかねない。

道の駅の事業に限らず、今後の地域づくりに向けては住民参加が不可欠であり、それを促進する手法としてワーキングの開催は非常に有効である。各市町村の担当者は、再度住民参加のあり方とワーキングの進め方を検討し、目的や地域にあった最適な手法を見出して頂きたい。